愛を感じる瞬間



*attention

前回に引き続き、我が家にはかっこいい兵長はいません。






















「大丈夫ですか、イェーガー君?」


「は、はいっ、大丈夫です!!」


自傷行為をしないと巨人化できないと言う、迷惑極まりない少年の世話を命じられました。誠に遺憾です。


「手の傷はもう大丈夫ですね。他の怪我を診せて下さい。」


「お俺、もう大丈夫です!!」


どうも目の前の少年は挙動不審な所がある。消毒液に顔を歪めたかと思えば、その顔を真っ青にさせて震えだしたり。ひとたび私が声をかければ、これまた真っ青になり、あちらこちらに視線を彷徨わせる。


「診察が嫌いなのは、まぁよくあることです。しかし、君には必要なんですよ。理解してください。」


「え?診察は別にどうもないですよ?」


「じゃぁ、どうしてそんなに脅えて挙動不審なんですか?」


「そ、それはっ…」


私の考えを批判したイェーガー君は、何故か私の方を見ている。いや、私を通り越した誰かを見ていた。


「何をやっているんです?今は訓練中の筈では、兵士長殿?」


「はっ、俺はそれのお守だ。」


振り返れば、当たり前のように此方を見返す兵士長殿の姿。一際きつくなった三白眼に中てられたイェーガー君の体がびくりと震える。『躾』の影響がよく窺えますね。


「そうですか。ならば、せめて邪魔にならないよう、私の後ろに立つのを止めて下さい。」


「…俺の勝手だ。」


「はぁ。包帯を巻きますよ。きつかったら言ってください。」


頷きを一つ寄こしたイェーガー君の腕に包帯を巻いていく。直ぐに治るのだから必要ないと言う意見もある。しかし、万が一を考えるとしないわけにはいかない。


「ヴェラさん、少しきついです、」


「これくらいでどうですか?」


「楽になりました。」


巻き終えた包帯をしまい、今後の診察日を伝えると席を立ったイェーガー君。だが彼はドアの方に歩いていくのに、お目付役は壁に凭れたまま動こうとしません。一体何がしたいのでしょう?邪魔です。


「兵長、終わりましたよ?」


「先に戻ってろ。」


何を言っていらっしゃるんですか。それではお目付役失格でしょう?さっきは自分で言っておきながら、新手の職務放棄ですか?


「さて、ヴェラよ。」


「お目付役なんですよね?早く帰られたらどうですか?」


「その棘棘した物言いもいいな、」


「とっとと帰れ。」


部下が居なくなった途端に発揮される変態。イェーガー君戻ってきてください。お願いします。


「ふっ、俺も怪我をした。」


「はぁ?」


この男は何をさも自慢げに言っているんでしょう?貴方兵士長ですよね?人類最強ですよね?


「ヴェラ、お前に治療して欲しい。」


私も医療班の人間、いくら嫌いな人間でも怪我人とあらば診察しないわけにいかない。


「…患部を出してください。」


「ここだ。」


「…ふざけてるんですか?」


「ここだ。」


「どう見ても、紙で切った程度でしょう。」


「それでも怪我だ。」


怪我なめんじゃねーよこの野郎!!??と罵りたい、激しく。だが、罵ればこの男が喜ぶことが目に見えている。それは絶対に避けたい。


「…消毒しておきます。」


消毒液を浸したガーゼを押しあてた瞬間、兵士長殿は震えだした。嫌な予感がする。


「この滲みる感覚、ヴェラからの愛を感じっ」


悪寒がしたので、横の窓から投げ捨てました。



愛を感じる瞬間



(へ、兵長無事ですか!?)

(『こ、これがヴェラの愛!!』)

(っ、悪寒が…)



あとがき
そんなМ化してないね。


兵長にとって愛を感じる瞬間=女主から痛みを与えられる時。なんていうありふれた物が書きたかった…


こんなんでしたが此処まで読んで下さってありがとうございました!!!






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