小説 | ナノ


※嘘吐きな小指は、


ねぇどうして?どうして駄目なの?どうして約束守れないの?簡単なことじゃないか。なのに、何で、どうして、何故。酷いじゃないか、約束破るなんて。許せない、赦せないよ。


「止めて!お願い!お願いだから!!」


拒絶の声が部屋に響く。無機質な、黒と黒と、黒しかない部屋に。悲痛に恐怖に絶望に、いくつものいくつもの感情に顔を歪ませ、頬に涙を伝わせ、声帯が狂ってしまいそうなくらいの声で懇願の叫びを上げて。


「お願い!!止めて!!止めて!!」

「なんで?なんで止める必要があるの?」


叫び懇願する女に対し、しかしあくまでも男は至って冷静に平然に、寧ろ楽しそうな無邪気な子供のような笑みを浮かべていた。


「だって仕方ないじゃん。俺が何度も言ってるのに、約束を破る梓紗が悪いんだから」

「それについては謝るから!もう絶対!絶対に破らないから!ちゃんと守るから!!」

「もう何度も聞いたよ、それ」


狂気なようで無邪気なようで、ただただ笑いながら、無機質な部屋の中央に置いてある、テーブルの端にある枷に、涙を流し叫びを上げる女の手首を縫い付けるように嵌め込む。暴れもがく手をさらに押さえ付け、自前のナイフを白くて細い女の小指に近付けた。


「止めっ!いや、おねが、止めて!!なん、でっ、こんな事!!」

「あれ〜?何その俺が悪いみたいな言い方。ねぇ、悪いの俺?俺が悪いの?俺が何かした?」

「そ、れ…はっ」

「してないよね。だって俺、梓紗に約束守ってって言っただけだもん。梓紗が何度も何度も約束破っても、それでも俺我慢してたんだよ?我慢して、我慢して。でも、もう我慢できなくなっちゃった」


細くて今にも折れてしまいそうな小指。鋭いナイフが薄い皮膚を傷つけ、一筋の赤い雫が滴る。


「約束を守れない小指なんて、要らないよね」

「や、め…」

「“切り落とそっか”」

「止めてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」



小指の消えた片手。
(これが最後だよ。もう一度破ったら、もう一本も…ね?)


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