小説 | ナノ


愚かなウェルテル


青年ウェルテルは、アルベルトの婚約者シャルロッテに恋をした。
ウェルテルは、彼女が婚約者の身であることを知りつつ、その美しさと豊かな感性に惹かれ我を忘れたようになってしまった。
しかし、ウェルテルの想いは叶わない。ウェルテルは絶望し、彼は使いをアルベルトの元へやり彼のピストルを借りた。
シャルロッテはアルベルトの傍らに居つつも彼の前ではどうする事も出来ずピストルはウェルテルの手へ渡った。
しかしウェルテルはシャルロッテがピストルに触れた事の感謝を遺書に記し、12時の鐘と共にその命を終えた。

「下らないわね」

ぱたん、と鈍い音を立てハードカバーを閉じる。人造的に造られた整った顔を不快そうに顰めた。

「何が下らないんですか?アリア」

「リヴァイヴ」

薄紫色の髪とは反対に少し濃いめのガーネットの瞳を丸め、きょとんと小首を傾げたリヴァイヴに、閉じたハードカバーをパラパラと捲った。

「若きウェルテルの悩み。600年以上昔に刊行された書簡体恋愛小説よ」

「あぁ、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの作品ですね。当時はヨーロッパ中でベストセラーになったらしいですけど、逆にウェルテルを真似て自殺者が急増して問題が起きたとか」

「そうよ。試しに読んでみたけど、本当に下らない話。ニンゲンって、どうしてこんなに下らない話が思いつくのかしら。リヴァイヴ分かる?」

「ニンゲンの思考は僕にも理解出来ません。しかし、この小説は中々面白いと思いますよ。愚かだとも思いますが」

「愚かなのは私も思うわ。だから下らないんじゃない」

「でも面白いですよ、この話は。捉え方を変えれば、略奪愛のようで略奪愛ではない。ウェルテルは愚か過ぎるあまりシャルロッテを射止める事が出来なかったんです」

「あら、まるでリヴァイヴがウェルテルならシャルロッテを自分のモノにしていると言っているみたいね」

「みたいじゃなくて、言っているんですよ。僕は欲しいと思えばどんな手を使ってでも手に入れますよ」

「涼しい顔しながら言うことじゃないわよ」

パラパラと捲っていたハードカバーをもう一度閉じ、乱暴に投げる。ハードカバーが無残にも床に叩き付けられた。

「乱暴ですよ、アリア」

「別にいいわ。あんな下らない小説」

「そんな事を言わないで」

困ったように眉尻を下げながらリヴァイブがソファにうつ伏せるアリアの髪を撫でる。クセの全くない艶のある髪を少し手に取り唇を寄せた。

「アリア。僕があの小説で面白いと思うのはウェルテルの一途な想いですよ。あんなにもシャルロッテを想っておきながらも伝える事が出来ない。そしてそのまま絶望して命を落とすなんて、愚かなニンゲンの代表に選ばれても可笑しくはありません」

「ねぇリヴァイヴ。言いたい事ははっきりと言ってくれる?」

「仕方ないですね。要するに、僕は想いを伝えられぬまま死ぬなら、想いを伝えてそのまま僕のモノにします。アリアにも、そうして気持ちを伝えましたからね」

「…そういえば、そうだったような気がするわ」

「誰かに奪われる、奪われたままなんて気に入りません。奪われるなら奪われないように縛る。奪われたままなら逆に奪う。簡単な事だと思いませんか?」

「じゃぁもし、私がリヴァイヴから逃げるようならどうするの?」

「僕が、アリアを逃がすとでも?」

「あら恐い。独占欲が強い人って、結構嫌われちゃうわよ」

「大丈夫ですよ。ニンゲンに興味はありませんし、嫌われようとどうも思いませんから。それよりも、どうすればアリアを繋ぎ止めておけるか考えるので精一杯ですよ」

「不安なの?」

「いいえ」

寧ろ、楽しいです。耳元で囁かれる声にビリビリと背中に電流のようなモノが走る。

「なんなら、アリアを繋ぐ為の方法を実践しましょうか?」

「面白そうね」

頬を滑る手に、そっと目を閉じた。


My dear Charlotte. I connect to the lady love.
(愛しい僕のシャルロッテ)(あぁ愛しい、美しいプリンセス)

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