小説 | ナノ


If hot, the side

何故、何故、何故、
どうして、どうして、どうして、
何故、どうして、何故、どうして、何故、どうして、
何 故 !!
こ ん な 事 に !!



向きあう銃口。トリガーに籠められる力。張り詰めた様な緊張感に、心臓と肺の両方が締め付けられているようで、上手く呼吸が出来ない。眼前の光景と、今までの日々と、いくつもの情報が頭の中でこんがらがって、ちゃんとした一本に繋がらない。

「アリアっ…」

何故!!何故!!何故!!何故、こんな事に!!

「どうしたの?ティエリア。早くトリガーを引けばどうなの?」

「…っ!君は…それでいいのか…!?」

「えぇ。私は元からこうする為に造られ、貴方に近づいた。そして今、私は私の使命を遂行しようとしているの。貴方を撃てば、現状況での私の役割は終わりよ」

淡々と機械的に述べる姿は、本当に造られたという事を証明しているようで。切なくて、苦しくて、辛くて、悲しくて、これが幻というなら、夢というなら、今にも覚めて欲しいと懇願する想いで願うのに。

「貴方が悪いのよ、ティエリア。リジェネに会ったその日に私達の元へ来ればこうなる事は無かった。リボンズが貴方を敵として見るのも当然。イノベイターが人間に感化されるなんて、愚か過ぎるわ」

「僕らイノベイターは人と分かり合える!!それが分からないのか!?ソレスタルビーイングとして、四年前の戦いを忘れたのか!?彼の、ニール・ディランディの言葉を忘れたのか!?」

「貴方の言っている意味が分からないわ。私には、イノベイターとしての使命、イオリア・シュヘンベルグの計画、そして自分自身の存在意義しか記録されていないわ」

「!なんだと!?」

残っていない!?あの戦いの記憶が!?誰よりも、ニール・ディランディを信頼していた彼女が、彼の事を憶えていないと言うのか!?

「嘘だ!!君が彼の事を忘れる筈がない!!誰よりも彼を信頼し、そして彼の死を嘆いていた君が、彼を忘れるなど!!」

「別にニール・ディランディという男を忘れたとは言っていないわ。あの男の事は私の脳に記録されている、勿論四年前の戦いもね」

アリアの瞳が、金色の光を帯び、プリズムのように輝き始める。それと同時に、自身と同じ容姿をしていた者の声が脳に響いた。

[今の心境はどうだい?ティエリア]

「!リジェネ…レジェッタ」

[苦しいかい?苦しいだろうね。始めに言っておくけど、アリアにどんな言葉を掛けた所で彼女にソレスタルビーイングとして戦っていた記憶は戻らないよ。あるのは、自分がそうしていたと言う記録だけ。彼女は、イノベイターとしての自分を取り戻したんだ。まぁ、彼女の記憶を記録という形に変換し、再び君達の元へ戻したのはリボンズだけど]

「なっ…!ば、かな」

[どうだい?初めて愛した者が敵になる気持ちは。僕には理解出来ないけど、人間らしい君は、凄く辛いことだろうね]

「っ…」

ぎしりと歯茎が音を鳴らす。脳内に響くまるでせせら笑うような冷笑が無性に腹立たしくて、憎らしくて、目の前の愛しい彼女を変えた者達が、壊した者達が。

「何故だっ…!何故、何故…!」

初めて、ヴェーダ以外に信じられる者が出来た。初めて、愛しいと感じる者が出来た。傍に居たいと思った、護りたいと思った。冷徹だった自分に、優しく声を掛けてくれる、笑顔を向けてくれる、そんな彼女が――愛しかった。

「アリア!君はそれでいいのか!?君が大切だった物も、人も、全てが他の者の手によって記録に変えられ、"ただ在った"という形しか残らない!君は本当に、本当にそれだけでいいのか!?」

「私は…」

「人とイノベイターは分かり合える!僕らイノベイターは造られた存在だ。しかし、僕にも、君にも感情がある!」

「……………………………」

「僕には、君が本当に記録としか憶えていないとは思えない!君は憶えている筈だ!四年前の戦いを!ソレスタルビーイングとしての、戦いを!想いを!全部、戦いの間で感じた全ての想いを、憶えている筈だ!」

本当に思い出せなくとも構わない。ただ、届いてくれればいい。僕の気持ち、ソレスタルビーイングの気持ち、ただ、ただ、それだけで構わない

「取り戻せ!君の想いを!君の中に残っている筈だ!アリア、君の中に、必ず!」

「…わ、た…し……は」

届いてくれ!アリア!


「アリア・ループ!」

かしゃんと小さな音を立てて、華奢な手から銃が滑り落ちる。力なく座り込んで、双眸の瞳から涙を流す。時折零れる嗚咽に、今すぐに駆け寄り抱きしめたい衝動が疼いた。

「っ…な、んで……どうして、どうして…直ぐに、撃ってくれれば良かったのにっ…!!」

「アリア…」

「自分がイノベイターだって、リボンズに教えられて……どうしたらいいのか分からなくて…」

「………………………………」

「だから…だから!」

包まれる温もり。細い様で、しっかりとした腕が優しい。

「アリア」

「…っ」

「帰ろう。トレミーに」

「…っ、帰って…いいのかな?」

「勿論だ。一緒に、帰ろう」

「っ、うんっ…」

帰ろう、一緒に。僕らは人間だ。心を持ち、そして此処に居る。使命などに縛られる必要はない。僕らは、僕らでいいのだから。



(苦しいなら、僕が抱きしめる)(だから、君は君でいて)

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