鬱陶しさに、愛しさ覚え
「球磨川せんぱい!」
「『お』『今日も来たねー』『おいでおいで』」
……最近、彼女と球磨川先輩の仲がいい。
いつ自教室を出てきているのかは分からないが、昼休みのチャイムが鳴ると同時に−十三組の教室に入ってくる。入ってきたかと思えば、そそくさと椅子を数個並べ、そこに球磨川先輩が寝転がり端の椅子に座った彼女の膝に……。
「『いつもありがとう』『はいこれ』『約束のやつ』」
「うわあ!ありがとうございます!球磨川先輩天才ですね、どれも素晴らしいです!」
球磨川先輩から、数枚のカードか何かを受け取り、嬉しそうに頬を赤らめる彼女。一体何が書いてあるのかは分からないが……いつもいつも、人の後ろを犬のようについて回ってきたというに、彼女という人は。
「(…馬鹿馬鹿しいですね)」
どうして私が彼女なんかを気にしなきゃいけないんですか。
第一、彼女がおかしいんです。あれだけ人のことをつけ回しておきながら、次は球磨川先輩ですか。いい身分ですね。球磨川先輩も球磨川です。彼女に膝枕だなんて……。
「『こんなのもあるけど』」
「もう最高です!球磨川先輩大好きです!」
――ああ、イライラします。
「えっ!?が、蛾々丸君!?」
「少しお話があります」
彼女の腕を掴み、強引に立ち上がらせて教室を出る。彼女が早足になっているのに気づいたが、足は緩めずむしろさらに早めて廊下を進む。後ろから何度も呼ばれる自分の名に、何故か優越感を覚えながら着いたのは、以前階段から落ちて怪我をしていた彼女と出会った場所――。
「はあ、はあ、が、蛾々丸君?」
「…どうして、球磨川先輩なんですか?」
「え?」
「毎日毎日、殺したくなるくらい鬱陶しくて、しつこく付きまとってきて…私の次は球磨川先輩ですか?」
「え、が、蛾々丸君?」
イライラします。この人が、私以外の人を追いかけ回すなんて。
「あなたが、殺したくなるくらい鬱陶しく、しつこく付きまとっていいのは、私だけです」
「球磨川先輩に何の魅力を感じているのかは知りませんが――あなたは、私のことだけ考えていればいいでしょう」
あなたみたいな人は、それで十分じゃないですか。
「…あ、あの……蛾々丸君」
「なんですか?」
「そ、その…嫉妬、してくれたんですか?」
「………はあ!?」
嫉妬?私が嫉妬?そ、そんな…そんな馬鹿なことが!
「そんなわけないでしょう!わ、私はただ…球磨川先輩のご迷惑がかからないように」
けれど、本当にどうして?どうして私は、彼女をこんなところに連れてきてまで?
「そう、ですか……でも…でも、いいです!私、今すっごく嬉しいです!」
「意味がわかりません」
「あ、私、球磨川先輩のことは全然好きじゃないですよ?球磨川先輩が約束してくれたので、膝枕とかはその交換条件です」
「交換条件?」
「はい!これですよ、じゃーん!」
効果音が付きそうな動きで目の前に出されたのは、先程球磨川先輩から受け取っていたであろうカード。そこに写っていたのは――私?
「球磨川先輩が、お願い聞いてくれたら蛾々丸君の写真いっぱいくれるって、約束してくれたんです!」
十数枚に至る数のものに写っているのは、自分ただ一人。それは授業中ノートを書いているものであったり、うたた寝をしているものであったり、とにかく彼女が来られない時間帯の、主に授業中のものが多かった。それも色々なアングルから――。
「……そういえば…最近、球磨川先輩がよくカメラで何か撮っていたような…」
「はい!私がお願いしました!」
「…はあ」
全く、この人は。
「ああ!何するんですか蛾々丸君!返してください」
「ダメです。これは没収します」
わざわざ写真なんて撮らなくてもいいのに。
「写真なんて撮らないで、私の後ろをついて回ればいいでしょう」
後ろにいるなら、どうぞどうぞご自由に
(『蛾々丸ちゃんはさ』『結構あの子のこと好きなんだよ』)
(『だって』『過負荷な自分に付きまとってきたのは』)
(『あの子が初めてなんだから』)
更新:13/01/21
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