罪悪ドリーミング
「ねぇ万斉。私、万斉の弾く三味線好き」
「ずっとね、綺麗に流れてるの」
「どんなに上手な人が弾いても」
「万斉のが一番好き」
「万斉のが…一番綺麗」
「大好きよ、万斉。ずっと、ずっと」
「誰よりも…貴方が一番、大好き」
清潔的な白で統一された、一人では広くしかし大人数では狭い個室。曇りのひとつとて無い、新品そのものの透き通った窓硝子が開け放たれ、そこから入り込んでくる静かな風が真っ白なカーテンを揺らす。
静かな三味線の音。誰かが作曲したわけでもない、ただデタラメに弾いているように捉えられる音色。しかしそんな音色の中にも、確かに規則性があり、不快とも快感とも言えない、ただひたすら静かな音。
『どんなに苦しくても、辛くても、』
『万斉の三味線を聞くと、頑張れるの』
過去に聞いた言葉。今も頭にこびり付き、時折幻聴のように耳元で囁き続ける。今は――聞こえなくなった、その声で。
「拙者の三味線なら、いくらでも聞かせてやるでござる」
それはもう、聞き飽きるほどに。
「だから、」
時々、夢を見る。あの日の、あの出来事の、助けられなかった彼女の夢を。
「負けるな。生きてみせろでござる」
君の音を聞かせて
(何度でも、この音色を奏でるから)
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