失恋バレンタイン 

※元就女体化
※親←就前提
※現パロ



2月14日。
チョコレートに振り回される多くの人たちが世の中に溢れる日。
気持ちを伝えようだとか、チョコだけは渡したいだとか、いくつもの想いが飛び交うなか、毛利元就は薄暗い空き教室の隅で膝を抱えていた。ひとり、そこで泣いていた。
(何なのだ、アイツは)
思いながら、涙を拭う。
床に投げ出された白い箱が虚しく存在を叫んでいた。

バレンタインデーと名付けられた日に失恋をした。気持ちを寄せていた大男に彼女がいることがわかった。彼女にチョコを貰ったときのアイツの顔がにこやかで嬉しげで、あげくの果てに「テメェ以外のはいれねぇよ」なんて。そんな言葉を聞いてしまっては渡せるものも渡せない。
気持ちを寄せていた大男というのは幼馴染みの長曽我部元親のことだ。そもそも人と関わるのが苦手な元就は周りの恋愛状況にも疎いのだけれど、まさかあの野蛮な男に。気づきそうなものを。
小さな頃から近くにいて、アイツの隣はいつまでも自分のものだと夢を見ていたのだと思う。現実なんてあっけなく、儚い。崩れるのなんてあっという間だ。
どっと、後悔の念が押し寄せてくる。もう少し早く行動をとっていたらとか、可愛いげのある振る舞いをしていたらとか、どれも自分らしくない考えが湧き出てきて。
「我、は…………」
なぜアイツなのだ。
そう声に出そうとしたとき、教室のドアが音をたてて開かれる。
そこにいたのは男だった。元親よりも大きい、男だった。
「ここは生徒立入禁止のはずだが…何をしているのかな、日の朋よ」
落ち着いた低い声で元就をたしなめるように言う彼は、この学校の理事である足利義輝だ。突然の登場に一瞬驚いた元就だが、すぐにいつもの表情を作り出す。周りに"冷たい"と印象付けられる表情を。
しかし今まで泣いていた目は赤く腫れぼったいままで、先程までの様子を相手に訴えていた。頭の回転がいい男はすぐにそれを察知して元就に近づく。
「世間が浮かれている今日という日になにかあったのかな?私で良いなら話を聞こう」
「…別に何も。公が気になされることではございません」
「そう、冷たいことを言うな日の朋よ。泣いている女性を放っておくほど私も冷たくはないのでね」
義輝が床に落ちた箱を拾い、元就に差し出す。
「これは君のだろう」
「……違う」
「なぜ、嘘をつく?」
「嘘?どうして嘘だと思われるのか。それが我のだという証拠はどこにもない」
「私の直感は、君のだと言っているのだがね」
「直感など…公の思い込みではないのか」
小さな箱と男の目から視線をそらしつつ、元就は立ち上がった。一人になれない場所に用はなく、やってきた義輝には少し苦手意識があったため、この教室を出ようと思ったのだ。
思ったのだが、それは義輝により阻まれてしまう。優しく、それでもがっちりと腕をつかまれた。
「何を」
「このまま君を帰していいものかと思ってな」
「…………放せ」
「そうは言うが、君は一人になりたくないと思っているのだろう?」
「…勝手な解釈をしないで頂きたい」
「朋よ、そう意地をはるな。心が弱ったときほど人は誰かと共にいたくなるものだ。それを恥じる必要も、隠す必要もない」
こいつは一体なにを言っているのだろう。義輝が言っていることが理解できない。
人と共にいたいなどと元就はこれっぽっちも考えてはいなかったのに、まるで分かったような口を聞く。何様のつもりだ。貴様に我のなにが分かる。元就の心が荒む。
他人と共にいれば自分の泣き顔を見られ、弱味を握られるかもしれない。失恋をしたと噂になるかもしれない。だから一人でいた。一人の方がいい。そうに決まっている。
それなのに何故か。
何故か、寂しいのだ。
いつの間にか離れていった幼なじみ。置いていかれたと、それがただ寂しかったのだ。
(……寂しい?)
ぼんやりと、思う。
(寂しい、とは、なんだ。何故我がそんな、寂しいなどと)
戸惑いをうっかり顔に出したのが最後、義輝がそれを察する。掴んでいた腕を引っ張り、元就を引き寄せた。
「…っ?!」
顔の辺りに分厚い胸板を感じる。腰のあたりに箱をもった方の義輝の手が添えられた。
そんな状況を読み取るのに数秒かかる。何故こんなことになっているのか理解しがたかったが、意味の分からない行為に安心している自分がいることに気づいた。
「無理のしずぎは良くないぞ、朋よ」
「…………無理など」
「しているだろう」
「…」
「それよりも、これは本当に君のものではないのかな?」
そう言う義輝の視線の先に小さな箱がある。それを察して元就は眉を寄せた。
「…その箱は我の手を離れたもの。既に行き場のない用無しよ」
「元々は君のものだったというわけか。…だが用無しとはあまりに可哀想だ」
「…別にそうでもない。ゴミ箱という居場所がそれにはある」
「いや、それでは勿体無い。君がよければだが、これは私が受け取ろう」
「………何故」
「この箱にも、君にも、興味があるからだ」
元就には、やはり義輝の言うことが理解できなかった。
勿体無い、受けとる、興味……単語ばかりが頭の中に浮かぶが、それが最終的に何を意味するのか分からない。けれど。
「勝手にすればよかろう」
あまりにも相手の体温が温かく、そんな言葉が口をついて出てきたのだ。慌てて取り消そうと思ったが、見上げた男の顔がひどく優しくて言葉が喉に引っ掛かってしまう。
(…こいつは、アイツではないのに)
どうしてこんなにも鼓動が早まっているのだろう。


 



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