見て、しまった。



自分の布団に入り、涙が出ないようにきつく目を閉じる。
すると嫌でもさっきの出来事が思い出される。


ゲンさんと赤い髪の女の人が、彼の家の前で二人で話していたのだ。
最初彼は驚いたような顔をしていたが、いつの間にか二人とも笑っていて。

そしてゲンさんはその人をあろうことか自分の家に上げて……、その先はもう見たくなくて、いたたまれなくて逃げてしまった。


どうして今日、なのだろう。

むしょうに会いたくなって、鋼鉄島にゲンさんに会いに行った。
そしたらあの場面に出くわしてしまって……、

自分の運のなさに泣きたくなった。


布団に入ったままの私を心配してか、相棒のシャワーズがボールから出てきておろおろしていた。

右に左にジグザグに歩いている様子は可愛くて、ちょっとだけ助けられた気がした。



「心配してくれてありがとうね、シャワーズ。」



私が声をかけると嬉しそうに答えてくれた。

近づいてきた相棒を捕まえてそのまま腕に閉じ込める。
ひんやりしていて気持ちが良かった。

今日の出来事がすべて夢ならよかったのに。
そう思いながら、私の意識は微睡んでいった。







* * *







「やぁ、ナマエちゃん。なんだか久し振りだね。」

「っ、ゲン、さん、」

「君もミオに用があったのかい?」

「えっと、はい。…そんなところです。」



にこにこ、と爽やかに笑うゲンさんは素敵だ。
だけど、私はちゃんと笑えているだろうか。


手持ちの子達の消耗品(主に食べ物とか)を買いにミオのショップにやってきたら、ゲンさんと鉢合わせしてしまった。
基本彼は鋼鉄島にしかいないと思っていたので、かなり驚いた。

ここでゲンさんと会えたのは正直言うと、すごく嬉しい。
でもまだ私の中であの赤髪女性連れ込み事件(と勝手に命名した)はうまく昇華しきれていなくて。
ゲンさんの前で変な顔や態度を取らない自信がなくて、彼に高確率で会ってしまう鋼鉄島にはまったく行ってなかったのだ。



「えっと、あの、ゲンさんはどうしてミオに…?」

「あぁ、鋼鉄島で自給自足をしようにも限界があるからね。足りなくなった必需品を買いに来たんだ。」



へぇー。

やっぱりゲンさんは笑顔であって。
私はもういっぱいいっぱいなんで、詰まる所逃げ出したい。



「では、私はこれで、」

「ナマエちゃんはこの後暇かな?」

「え、あ、?」

「久し振りに会ったんだし、一緒にお茶でもどうかい?」

「……!?」



ゲンさんにお茶に誘われるとか……!
これはまったく考えてなかった事態だ。

正直な話、行きたい。
この荷物かなり重いけど、そんなの関係ないくらい行きたい。

あー、うー、でも、でも!
この前のこともあるし、私がゲンさんの隣にいてもいいのだろうか…。



「…っ、あ、あの、私なんかが行っても…?」



勇気を振り絞って聞いてみた。

もし例の赤い髪の人がゲンさんの、その、(私は嫌だけど)大切な人とかだったら、誤解されるのはゲンさんも好ましくないだろうし。

ちらり、と彼の顔を見ると、私の質問が意図が掴めなかったのかきょとん、とした顔をしていた。
そして一拍おいてから、



「私はキミを誘ったんだ。ダメな訳ないだろう。」



笑って私の頭を撫でてくれた。

たったそれだけの動作で胸がこんなにドキドキしてしまうのは、きっと相手がゲンさんだから。


それだから、



「ゲンさんの彼女ってわけじゃないのに、いいんですか…?」



それだから、変に期待を持たせないで欲しいという気持ちからきっとこんな質問がでてきてしまったんだ。

言ってしまってから、今こんなこと聞いてどうするんだ、と後悔する。後悔先に立たずとはこんな感じなのだろうか。



「い、今の言葉は忘れてください!えっと、私、用事があるんで失礼しますね!」



変なことを口走ってしまった自分が嫌で、赤髪の女性に嫉妬してしまう自分が嫌で、ゲンさんの前から逃げるように消え去る。

予定だったのに、



「ちょっと待って。」

「……っ、」



パシッ、と荷物を持っている方の手をゲンさんに素早い動作で掴まれた。
だけど青い彼の方は見れなくて、そのままの格好で停止してしまった。



「…キミが何を思ってそう言ったのか私にはわからない。」



わー、わー、わー、いいんです!本当、なんでもないんです!!

後ろを向いたままそう言おうと思ったけど、だけど、とゲンさんが続けるのでこの言葉は口から出なかった。



「私はどうでもいいと思うような人間は、お茶になんて誘わないよ。」



それって……、

少しだけ後ろを振り向くと、ゆるく笑顔を浮かべたゲンさんと目が合った。


それって、うぬぼれてもいいんですか?



「もちろんだよ。」



私の心の声が聞こえたとかそんなことはありえないだろうが、ゲンさんは優しく答えてくれて。
まだゲンさんを好きでいてもいいという勇気を少しもらえた気がした。










曖昧になる境界線
(少しだけ前進できる予感がするの)
(「ゲンさんあの…、赤い髪の女性ってどなたなんですか?」「……あぁ!罰ゲームで女装したヒョウタくんのことかな?」「(結局そんなオチ!)」)






∵ものすごい土下座→お返事
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