*もしワタルさんに拾われていたら・・・、







「えーと、何々・・・、これをオーブンに入れて10分加熱すればOK、っと!」



あまり使われていない綺麗なオーブンに、先程作ったカップケーキの元(?)を入れ、セットする。

チャンピオンと四天王の皆さんは、このセキエイ高原から(一応)動いてはいけないことになっている。
ワタルさんはその規則をこっそりと破っているようだが、特にイツキさんなんかはいつ挑戦者が来てもいいように常に緊張しているみたいで。
そんな空気をなんとかしたくて、私は慣れないお菓子作りに挑戦している。

皆さん、甘いもの嫌いじゃないといいなぁ。

焼き上がりまでの間、使ったボールなどの道具を洗って待ってることにしよう。
泡だて器やらヘラを水道へ持っていく。



現在、私はセキエイ高原にて生活させてもらっている。
赤髪オールバックのあの人の話によると、なんでもカイリューに空中散歩をさせていたら私を拾って戻って来たらしい。

ワタルさんも驚いただろうけど、私だって驚いたさ。
だって目が覚めたら、カリンさんとかキョウさんとかイツキさんとかシバさんとかいるんだもん。
第一声が「なんだこれ!?」だったのも、おかしくない、おかしくない・・・。

そして手持ちのポケモン一匹もいなくてしかも記憶喪失、と判断された私は皆さんの好意によってここで生活させてもらっている。


セキエイ高原はゲームではなかったけれど、裏口?のようなものが存在していて、そこから中に入ると(スタッフオンリーらしい)、なんか、もう、色々とすごい。
四天王やチャンピオンの皆さんが過ごしやすいようにと、一人一人にプライベートな小部屋が用意されていて。(というかあれは小部屋なんてものじゃない。そしてもちろん冷暖房完備されてる)
加えて、でかい薄型テレビのある共同スペース(かっこよく言うなら談話室かな?)とか、最新機器が勢ぞろいのキッチンとか、とにかく!伝えきれないけど色々とすごいものがあるのだ!!

なんなんだ、この優遇は!
これがチャンピオンというものか!?
と、頭の中で悶えていたのは内緒だ。

雑用係になってからそろそろ一週間経とうとしているが、このすごさには未だに慣れない。


道具のすすぎをしているとヒョコッ、と扉から誰かが覗いてきた。



「ナマエちゃん?」

「あ、ワタルさん。」



誰か、というのはワタルさんだった。

回復の薬を嫌というほど使ってくるチャンピオンにはかなり苦戦させられた覚えがあるので、時々言葉がおかしくなってしまう時があるがそれはご愛嬌だ。
そして自由奔放に各地を飛び回ってるこの人にしては、真昼間からここにいるのは少し変な感じがした。



「どうかしましたか?」

「いや、いい匂いがしたもんだからちょっと覗いてみただけなんだ。」



いい匂い?



「もしかして、カップケーキを焼いてるからでしょうか?」

「そうかもな。」



そう言って笑うワタルさんはテラカッコヨス。
イケメンオーラがパないです。

会話が切れたので洗い物を再開しようと水道の方を向くと、彼は私のいるキッチンにあるテーブルのイスに腰掛けたようだった。
私の背中にあの人の視線をなんとなーくだけど感じる。


・・・・・・え。
あの、ちょっと待って下さい。
これは羞恥プレイか何かでしょうか。
なんでこんなイケメン様に洗い物のシーンをガン見されなければいけないのか。
罰ゲームか、これ。



「ナマエちゃんは、」

「うぇ!?は、はい!」



頭の中で色々と考えていていきなり名前を呼ばれたせいか、声が裏返ってしまった。

くるり、と私の名前を呼んだワタルさんの方を振り向く。



「・・・やっぱりなんでもない。気にしないでくれ。」

「はぁ・・・、」



一体なんだったんだろう?、と考える間もなく、チン!、とタイミングよくオーブンが鳴った。
小走りでそこに行って、焼け具合を確かめる。

よし!
きちんと膨らんでるし、まぁこんなモンでしょう!

両手にミトンをして、オーブンから出来たばかりのカップケーキを取り出す。
ほのかに甘い香りが鼻腔をくすぐった。

味見したいなー。

一応、セキエイ高原にいるジョーイさんとか、ショップの店員さんとか、ケーシィのおじさんとかにも持っていきたいな、と考えているので、多めには作ってある。



「おいしそうだな。」

「!?」



すぐ後ろで声が聞こえたような気がして振り返ると、やっぱりすぐ後ろにワタルさんがいた。

色々と近くありませんかー?

しかし、あまり不審には思われたくないので、平静を装って彼に聞いてみる。



「あの、ワタルさん、味見してくれますか?」

「味見?」

「はい。うまくできた保証はないんですが・・・、」



大丈夫。塩と砂糖をミスるという根本的な間違いはしてないはずだ。
あまり料理は得意ではないので、確証はないが。



「俺でよければ。」



ワタルさんはニッコリと笑うと、焼きたてのカップケーキを1つ手に取った。
後ろからにゅっ、手が伸びてきて、少し驚いてしまったのは秘密である。(べべべ、別に、チキンじゃないもん!)



「いただきます。」

「あっ、どうぞ。」



うは!
反射的にどうぞ、なんて言ってしまった自分が恨めしい。
しかし彼は特になんとも思ってないらしかった。(よかったぁ・・・)


ワタルさんの口の中に消えていくカップケーキ。

なんか変に緊張するな・・・、



「ん!これ、おいしいよ!」

「ほ、本当ですか!?」



よかった・・・、という言葉がため息と共に口から零れる。



「ナマエちゃんはお菓子作りが得意なのかい?」

「いえ!そんなことはまったくなくて、」

「あぁー!!ワタルとナマエちゃんがラブラブしてるぅー!!!」



ええぇ!?
べ、別にラブラブなんてしてませんよ、そんなの!!

と、心の中で反論する。

声のした入り口を見ると、カリンさんがこちらを指差していた。



「別にラブラブなんてしてるつもりはないんだがな。」

「このー、照れ屋さんめ!!」

「はぁ、」



ため息をつくワタルさん。

さっきのカリンさんの声に釣られてか、他の四天王の皆さんもキッチンに姿を表した。

これは都合がいい。
やっぱりなんでも出来たてが一番おいしいんだし。

さっきまでの話題を払拭する為に、笑顔で言ってみる。



「カップケーキを焼いてみたんですが、皆さん食べませんか?」

「「「「カップケーキ?」」」」

「はい。あっ、甘いの大丈夫ですか?」

「大丈夫もなにも大好きよ!」



最初に反応をしてくれたのはカリンさんで、私の手元からひょい、と1つカップケーキを取っていく。
そしてどうやら甘いものは大丈夫とのことなので、イツキさんとキョウさんとシバさんにも1つずつ渡す。


包装してなくてごめんなさい、と私が言うと、皆口々に気にしないさ、的なことを言ってくれた。

そのやさしやに感動しながらも、ケーシィおじさん達に持っていく時はきちんとラッピングしようと思ったのだった。










チャンピオン&四天王と一緒!
(カップケーキを作ってみた、の巻き)





∵なんか俺設定が多くなってしまった・・・。そしてあんまりワタルさんとラブラブできてない・・・。四天王はカリンさん以外しゃべってないし・・・。
実は夢主が来てからワタルはあまり出歩かなくなった、という裏設定も・・・。
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