最近ふと、思うときがある。
自分の人生は本当にこれでいいのか、って。
私は親によって敷かれた、分かれ道なんて存在しないレールの上なんじゃないかって。
人に決められるがままに生きていた気がする。
今歩いてるこの道だってそう。
自分で決めた道なら何があっても頑張れる。
だけど、人に決められたことは頑張れないよ。
・・・何考えてるんだろう自分。バカみたい。
暗くなるから、もう考えるのやめよう!
「ナマエ?」
「あ、ワタル。」
自己嫌悪に陥りそうな思考を無理やり終わらせたら、視界に赤髪なあの人が入ってきた。
「久しぶりだな。」
「うん、本当に久しぶり。リーグの方は大丈夫なの?」
「あぁ。今のところ挑戦者は来てないからな。」
ワタルは私の隣に腰掛けてきた。
今日のフスベは快晴だ。
まるで空が近くに感じるくらい。
そのまま空に視線を送っていると、彼のカイリューが飛んでいるのが確認できた。
元気そうでなによりだ。
「お見合い、するんだって?」
「え?あ、まあね。」
ぼけーっ、とカイリューを見ていた私にワタルが唐突に声を掛けてきた。
そして私の最近のわだかまりの原因になっている核心部分をついてくる。
「なんかね、ずっと一人でいた私を見かねてことらしいよ。」
まったくお節介焼きなんだから、という私はうまく笑えているだろうか。
本当はお見合いなんてやりたくない。
でも長老に進められては断りにくいし、何より親が乗り気だ。
“いい子”な私は親からの押しに弱い。
「相手の人は結構なお金持ちでいい人らしいの。玉の輿狙えるかしらね。」
私の口は別の生き物のように良く回る、廻る。
本心はこんなんじゃないのに、臆病な私はただ敷かれたレールの上しか進めない。
道を少しでもずれる勇気が無い。
一歩が踏み出せないの。
私は、私は・・・、ワタルが好きなのに。
「そうか。」
私の隣のあの人の声は特に変わった様子はないようだった。
表情は怖くて確認できないけど。
だって好きな人に笑って送り出されるなんて、悲しすぎる。
このお見合いは、あなたへの想いに蓋をするのにちょうどいいのかしら、なんて自称気味な考えまである。
どうせ私は、わたしは・・・、
「おっ、おい!どうしたんだ!?」
「へ?」
ワタルが慌ててる。
なんだかそれって新鮮かも。
「・・・・・・あ」
しばらくして気づいた。
自分から水が垂れていることに。
私は、泣いているのだ。
「あれ?なん、で、」
ぬぐってもぬぐっても溢れてくる。
ワタルの前では泣きたくなかったのに、
みっともないし恥ずかしいからもう消えるか、と思って立ったらワタルに手を掴まれた。
振り払おうと思っても、それはできなくて。
「はなして、」
「嫌だ。・・・・・・と言ったら?」
彼の言葉に、少なからず胸が高まってしまう自分がいる。
期待しても無駄なのに、
「ワタルのこと嫌いになる。」
この時は自分の一部じゃないような口に感謝した。
頬を伝って、水が流れる。
しばらくして自分の手からゆっくりと彼の手が離れる感覚がした。
自分から離して、って言ったのに寂しさを感じてしまうあたり、私は相当ワタルのことが好きなのかもしれない。
でも、その感情も今日が最後。
そうやって決心して走り出そうとしたら、またもや赤髪オールバックの彼に邪魔された。
今度は、抱きしめられた。
あの人のその行動にビックリして、言葉が出ない。
そのまま抵抗も出来ずに固まっていると、耳元でワタルの低い声が聞こえた。
「嫌われてもいいから最後に、君に言っておきたいことがある。」
耳に軽く息がかかって背中をぞわり、とした感覚が襲う。
このまま言葉を聞いてたら、私の耳は溶けてしまうそうだ。
「俺は、」
頭の中がガンガン、とうるさい。
「俺は・・・、俺は、ナマエが好きだ。自分でもどうしようもないくらい、好きなんだ。」
さっきよりも強い力で私を抱きしめる。
あなたにならこのまま絞め殺されても幸せかも、と自分の頭はかなりぶっ飛んだことを考えていたけど。
体感時間はすごく長かったけど、実際はたぶんそうでもなくて。
放心状態の私を離すと、彼はカイリューに跨り空に消えようとする。
そのビジョンを捕らえた私は無意識で行動を起こしていた。
ひらひら、と風に遊ばれてるあの人のマントを思いっきり、力の限り引っ張った。
ワタルの苦しそうな声を聞いて、私の意識は戻ってくる。
「ナマエ・・・?」
何やってるの、自分!
なんで引き止めちゃったのよ!!
ここまでしといて、やっぱなんでもない、は白々しすぎるだろうし・・・
あー、もう!
この際、どうにでもなれ!!!
ありったけの愛情を込めて
(この二文字をあなたへ)
(自棄になると、人間はなんでもできるみたい)
∵最初は切ないままで終わらせようと思ったけど、やっぱりハッピーエンドが好きです。そして私はお見合いネタが好きなのだろうか・・・。