「ナマエちゃん、だっけ?」
「は、はいっ、」
彼女がものすごく緊張しているようなので、そんなに緊張しなくても大丈夫だから、と笑ってみせる。
親父がこっちの地方では珍しい“やみのいし”と“ひかりのいし”をくれるというから、2つ返事で来てみればまさかのお見合いで。
自分はまんまと彼の罠にハマってしまった、ということになるだろう。
正直、石に釣られてしまった自分は情けないと思う。
それにお見合いは今に始まった話じゃない。
親父は早く息子である僕の身を固めて欲しいのだろう。
僕はまだ結婚なんてする気はないのに。
今までお見合いしてきた女性達は、まさに令嬢、という感じのお嬢様ばかりで。
変に高飛車だったり、怖い感じのポケモン(ボスゴドラとか)が苦手だったり、中にはポケモン自体嫌い、という人しかいなかった。
だけど。
ナマエちゃんはなんだか少し違う気がする。
それは彼女がアノプスを持っているからだろうか。
現在二人で散歩している庭は緑が生い茂っていて、上空ではスバメが舞っていた。
「ナマエちゃんはさ、アノプスが好きなのかい?」
「え?」
「ほら、大事そうに抱いているから。」
彼女の腕の中にいるアノプスを指差しての質問。
ナマエちゃんはきょとん、とした顔をして、それから答えてくれた。
「そうですね。私はこの子が大好きです。だって、大切な友達ですから。」
彼女のその答えに、満足そうにアノプスがひと鳴き。
どうやらアノプスもナマエちゃんのことが大好きなようだ。
そんな光景は見ていて微笑ましい。
「化石ポケモンが好きな女の子、って変わってますよね。」
「そうかな?僕はそんなこと思わないけど。」
「・・・ありがとうございます。」
そう答えると、彼女は少し寂しそうに笑っていた。
その会話を最後にそのままどちらもしゃべらず、沈黙が二人を包む。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
これは僕から何か話し掛けたほうがいいのだろうか。
ちらり、と横目でナマエちゃんを盗み見ると、アノプスをぎゅっ、と抱きしめていた。
「ダイゴさんは、」
僕達の間の、重苦しい沈黙を先に破ったのはそんな彼女だった。
「ダイゴさんは、どんなポケモンが好きなんですか?」
「僕、かい?」
「はい。」
「そうだな・・・。」
まるで定型文のような質問の答えを考える。
「僕は鋼タイプのポケモンが好きなんだ。」
「鋼タイプ・・・、」
「エアームドとか、メタグロスとかね。」
笑って答える。
「あとは、ユレイドルとかアーマルドとかかな。」
「!」
僕が化石ポケモンの名前を挙げると、ナマエちゃんはすごい勢いでこちらを向いてきた。
その動作にも驚いたが、彼女の目がすごくキラキラと輝いているように見えたことにもっと驚いた。
本当に化石ポケモンが大好きらしい。
そして、そんな目で見られては、次に発する言葉は決まっている。
「今ちょうど持ってるんだけど、見るかい?」
「できればお願いします・・・!」
そんな彼女の様子を可愛いなぁ、と思いながら、モンスターボールを取り出す。
少し周りを見渡して、二人で歩いている庭のある程度の広さがある所で二匹をボールから出す。
「わぁ・・・!!」
ユレイドルとアーマルドは最初、いきなりボールから出されて状況を理解していないようだったが、戦闘じゃないとわかると緊張を解いたようだ。
ナマエちゃんの目は、さっきよりもキラキラと輝いている気がする。
「あっ、あの、ダイゴさん、」
「ん?」
「触っても・・・?」
「大丈夫だよ。」
腕にいたアノプスを抱え直して、ナマエちゃんは僕のポケモン達に近づいていく。
二匹は彼女を興味深げに観察しているようだった。
おずおずと手を伸ばす彼女を眺めながら、この子とならうまくやっていけそうだなぁ、と漠然と思った僕だった。
こんにちは、
(「ぎゃぁぁぁ!アーマルドに挟まれたァアァ!!」「落ち着いて!それは彼なりの愛情表現だから!!」)
∵ボスゴトラとネンドール涙目。