2 / 2 大事なのは気持ち (……あ、) はた、と思い出す。 新学期が始まって、学年も最高学年へと変わって間もない今日この頃。そういえば何か忘れている気がすると気が付いたのはいつだったか。始業式を迎えて早数日、早々に体調を崩した俺は今日もベッドの上である。幸いインフルエンザではなかったからいいものの、これがもしインフルであった場合クラスメート全員に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 話がそれてしまったが、今まで何か忘れている気がすると悩んでいたのだが、それが今になって思い出したのだ。そう、今はとうに過ぎ去っていった14日…それが自分のクラスメートであり親友である白石の誕生日だったのである。いや、友達なだけなら「忘れてた」「このやろー!」なんて笑い話になってまだいいのかもしれないが、話は別である。 俺と白石は大っぴらには言えないが俗に言う恋人同士であった。2月にあった俺の誕生日では、それはもう甘やかされて盛大に祝ってもらったものだ。それなのに誕生日プレゼントを用意してなければ学校にも行けず、顔を合わせられないどころか誕生日を忘れるなんて大きな失敗をしてしまった。 「…怒っとるかな」 いや、それはない。そう確信してしまうのはメールのせいだろう。 毎日のように送られてくるのは心配の言葉ばかりが並んだメール。同じクラスの生徒たちからのメールなんてあっという間に白石で埋め尽くされて見えなくなるほどだ。それだけ心配をかけてしまったことに情けないと思いつつ嬉しくなってしまう。 マナーモード中のバイブ音が鳴り響く。 『もう向かってるから』 そう書かれたメールを見て思わず勢いよく起き上がる。 長時間貼っていたせいが、落ちてきた冷えピタにも気付かずに部屋から飛び出す。 考え事をしていたせいで気付かなかったが、数分おきに白石からメールが着ていた。 『起きてるか』 『体は辛くないか』 『熱は下がったか』 『早く会いたい』 『今日は短縮授業らしいで。会いに行ってもええか?』 「…すまんなぁ、我慢できなくて会いに来てもうた」 ピンポーンと鳴り響いたインターホンと共にドアを開けると、白石は驚きに満ちた顔をしていた。それも次の瞬間には嬉しそうな顔をして話すものだから、どうしよもなく愛しくて、つい涙が出てしまった。 「ちょ、郁斗どないしたん?!」 「…ぐすっ、堪忍な白石…誕生日忘れてもうて。何も用意できなかったくせに熱出してん」 「…そんなん気にせんでええって。今は風邪を治すことに専念しいや」 そう言って白石は後ろ手でドアを閉めてから俺を抱きしめてくれた。大事なのは気持ちだから、と。そういう白石におめでとうと言えば幸せそうに笑う彼の顔を見て、早く風邪を治そうとより強く思うのだった。 「ありがとうな、郁斗。大好きやで」 「おん。…俺も蔵が大好きやで」 「おおきに」 end≫≫ ≪≪zero■戻る |