03

「俺、聖さんのこと好きやねん。付き合うてほしいんやけど。」
「すんません、無理です。」


部活の後に、話したことも見たこともない男子に呼び出されついていくと、告白された。予想通りではあったが、辟易とする。
誰やねん、と内心毒づくが、かろうじて口には出さなかった。

男子は私の返事に肩を落とすと、「わかった」といいゆっくりと去っていった。丸まった背中を見つめても、可哀相だという気持ちにはならない。感じるのは、嫌悪感だけ。

話したことすらない奴が私のどこをどう見て好きになったのか、なんて。そんなバカげた質問を相手に投げかけるのは最初のうちだけだった。


『かわええなって、ずっと思ってて…』


中学に入って、告白の回数は異常だった。毎日1人には絶対に呼び出され、四天宝寺にはこんなに男子がいるのかというほど。全員、口をそろえて言うのは、私の顔についてだけなのだ。


「…あほくさ」


部活終わりの太陽が落ち切った学校に、私の呟きは一際大きく響いたような気がした。恋愛なんて考えなかった小学校の頃には、こんなことはなかったのに、中学に入った途端にこの状況だ。男がみんな、馬鹿にしか見えなくなった。


部室に荷物を取りに行くと、ほかの部員はすでに全員帰った後のようだ。私は部室を施錠し、職員室に鍵を戻すと校舎を出てテニスコートの近くの裏門から帰ろうと足を進めた。


「…誰?」


もう部員はみんな帰ったはずなのに、テニスコートの方からボールの音がすることを不思議に思い、私はテニスコートへと向かった。音が聞こえてきていたのは、女子が普段使っている隣のコート―男子テニス部のコートからだった。
女子テニス部ではないのか、と少し肩を落とした私だったが、せっかくだからと興味本位でコート内を覗いてみる。


「綺麗…」


そこにいたのは、先日顔を合わせた白石蔵ノ介だった。思わず口に出してしまうほどに彼のフォームは綺麗で、お手本のようだった。

小学校の頃から私は彼を知っていた。
小学6年生の時、ジュニア大会の男子優勝者で、私と同じ大阪代表だったからだ。彼の基本に忠実なプレーは、派手さこそ無いものの見ている者を引き込む魅力があり、私もそのうちの一人。白石は私の憧れのプレイヤーだった。

だからこそ、中学に入って幻滅した。

白石はモテるらしい。入学当初から、女子からの告白が絶えないと噂があった。そりゃあそうだ。テニスが上手で、顔が良い。テニスをしている時のワクワクした顔、試合に勝った時の嬉しそうな顔を初めて見た時には白石の事しか考えられなくなったりもした。話したことこそなかったものの、そのプレーから彼の真面目さや誠実さは簡単に見て取れる。
白石が魅力的な人であることは十分に理解していたから、女子にモテるのだって当たり前だと思った。

中学校で見た白石の笑顔は、一言で表すなら“歪”だ。
八方美人とでも言うのだろうか。誰にでも同じ笑顔で話しかけているのを見かける。何を考えているのか分からないその様子に私は苦手意識を持ってしまった。


「やからってあの態度は流石に悪かったかなぁ…。」


桃子のところに行った時に白石と忍足を紹介された。憧れだったはずの白石に苦手意識を持ってしまった複雑な感情から、かなり感じの悪い態度をとってしまったと思う。
いつか謝らないといけないな、と考えながらもう一度テニスコートを見ると、すっかり片付けを終えた白石がコートを出てこちらに向かっていたので、私は鉢合わせにならないように急ぎ足で校門に向かった。

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