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「え!?マニキュア選んでくれた友達って、綺羅ちゃんやったん!?」
「あ、はい、写真見せてもろて、似合いそうなの選んだつもりやったんですけど、どうでした?」
「いやもうそりゃあホンマに気に入った!ブランドチョイスもカラーチョイスもナイスすぎ。蔵ノ介がこんなん選べる訳ないからビックリしたわ。」


その言葉に不服そうな顔をした蔵ノ介と、「たしかに〜」とクスクス笑う友香里ちゃん。私は選んだプレゼントを喜んでもらえて一安心だった。


「ホンマにありがとうね。ホラ、今も足に塗ってるんよ。」
「わ!ほんまや!やっぱ汐里さんその色似合いますね。私の見立て間違ってなかったんや。」


夏にピッタリの色合いだと思い買ったが、冬になってサンダルを履く機会がなくても足に塗っていてくれるのかと嬉しかった。

汐里さんは写真で見た通りやっぱり綺麗な人で、言葉は強いのに親しみやすい、頼れるお姉さんという感じの人だ。
友香里ちゃんも幼いながらも整った顔立ちをしており、将来はかなりの美人になるのだろうという印象。性格はこちらも強気で思ったことをズバズバというようだ。


「なんか、学校では女の子にモテモテな蔵ノ介が家ではこんな感じなんだね。ちょっと、面白いかも…。」
「どういう意味やねん…。」
「え、くーちゃんって普段学校でどんな感じなん!?」


余計なことを言うなと蔵ノ介に睨まれ、机に乗り出す友香里ちゃんの尋問を「あはは」と躱してみる。

いただきますをしてから汐里さんと友香里ちゃんに質問責めにあっていた私は、漸くといったところで目の前の美味しそうなカレーに手をつける。
少し辛口のそれを白米と絡ませ口に運んだ。ボロボロに崩れる寸前まで煮込まれたじゃがいもの甘さが口全体に広がり、思わず顔を綻ばせる。

もうかれこれ、他人の作った家庭の料理を食べていなかったものだから、何かが込み上げてきた。お母さんが死んでから、料理のできないお父さんの為に私が一から料理を練習していき、今の今まで私が作り続けてきたから。

やばい、涙が


「綺羅!?どないしたん…辛すぎた?」
「ちが……っ、ごめ、なさ…………ちが、」


頬を伝い顎から落ちた涙が机に叩きつけられる音は思いの外大きく響いた。蔵ノ介の声で、汐里さんは慌てて私の隣まで駆け寄って座り込んだ。背中を優しく撫でてくれる手が温かい。


「ごめんなさい…私、母がいないんですけど……自分以外の家庭料理を久しぶりに食べたので、なんか、分か、んないんですけど……。」
「うん、うん、せやな。うちのオカンのカレー美味しかった?」
「…、はい、めちゃめちゃ美味しいです……。」
「頑張ってきたんやな……いっぱい食べや。おかわり沢山あるから。」


汐里さんは優しく私の頭を撫でながらうんうんと相槌を打ってゆっくり話を聞いてくれる。まさか友達の家で泣き出してしまうなんて。恥ずかしいと言う気持ちはあったが、それよりも今はよく分からない感情が胸の中に渦巻いていた。


「綺羅ちゃん……。」
「…、ごめんな友香里ちゃん。恥ずかしいとこ見せてもうて。蔵ノ介も、汐里さんも、ごめんなさい。」
「別に泣きたかったら泣けばええねん。我慢せんと。」
「せやで綺羅ちゃん、ほら、食べよう。食べれる?」
「はい、ありがとうございます。気を取り直していただきます!」


私が笑顔を見せたことにより安心そうに微笑んだ3人もそれぞれ食事を進める。気を遣わせてしまったと申し訳ない気持ちになった私は、ご飯を食べたらすぐに帰ろうと決めた。

その後、帰ると言った私に汐里さんと友香里ちゃんは泊まっていけと激しい迄のお誘いを受けるが、明日も学校だとなんとか断りを入れ帰り支度を始める。


「送ってく。」
「え!?近いし、大丈夫やで。」
「ダメよ綺羅ちゃん。もう9時なんやから…蔵ノ介そんなんでもタッパはあるからな、用心棒にはなるで。」


徒歩20分ほどの距離しかないのだから大丈夫だと断るが、蔵ノ介も汐里さんも友香里ちゃんも引かず、結果1対3の私に勝ち目は無かった。
玄関を出て汐里さんと友香里ちゃんにお別れを告げると、「絶対また来てね。」と身体を揺さぶられ、「はい」としか答えさせてもらえなかった。
私の家までの道を蔵ノ介と並んで歩き始める。先程までの騒がしさから一変、突然の静けさに少し緊張が走った。


「すまんな、あの2人騒がしいやろ。」
「ふふ、面白かった。蔵ノ介はあの2人に似なかったんやね。」
「俺がああなってもうたらもう収集つかへんやんか。」


彼は周りとの調和を取ろうと自分を抑え込む傾向にある。それはテニスにも言えることだが、彼の聖書テニスは他の部員を自由にプレイさせる為に、自分だけはしっかりしていようと基本を極め続けてきた結果なのかもしれない。2年生にして部長となり全国へとチームを導いてきただけに、背負うものはあまりにも大きすぎた。


私の家が見えてきた。もうすぐお別れだと思うと、あと少し家が遠ければよかったのに、なんてガラにもない事を考えてしまう。これが恋をするということの代償なのだろうか。
自分が自分じゃないみたいだ。


「今日はありがとうな。友香里のこと、助けてくれて。」
「いや、こちらこそありがとう、ご馳走にまでなっちゃって…あと、ごめん。取り乱して。」
「…綺羅が嫌やなかったら、また飯食いに来て。あの2人も、母さんもめっちゃ喜ぶから。」
「…そうかな。」
「おん……俺も、嬉しいし。」


思わず顔を上げると、真剣な蔵ノ介の目に射抜かれる。顔が赤くなっているだろうが、今が夜で本当に良かった。多分、バレてない。

こういう事を言われると勘違いしそうになる。やめてほしい。心臓がうるさい。
勘違いしてはダメ。

蔵ノ介には好きな人がいるんだから。

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