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「俺、聖の事ずっと好きだったんだ。」


すっかり涼しくなった屋上で、私は今井くんと対面していた。沈みかけた夕日が、私と彼を仄かに照らす。


「え…嘘…。」
「嘘ちゃうよ。気づかんかったかなぁ、結構アピールしてきたつもりやねんけど。」
「私、全然…。」


同じクラスの今井くん。確かに今思うと、最初から何かと私に親切にしてくれたような気もする。でもそれが彼なのだと思っていた。


「俺、誰にでもあんな親切な訳やないで。聖だからそうやっただけ。」
「そ、うだったの…えと…。」


仲の良いクラスメイトだと思っていた。話しやすくて、優しくて、あまり気を遣わなくて良い人だと。


「俺、聖のかわええところが好きや。顔だけやなくて、中身っちゅーか。素直やなくて少し不器用で、でも友達想いなところ。強いようで、実は誰よりも弱いところも、守ってやりたいって思ってた。」


男子に告白される事は正直これまで何度もあった。でも、こんなに私の好きなところを話してくれた人は初めてだった。自然と顔が赤くなるのを感じる。
ただなんて答えればよいのか分からない。今井くんの事は嫌いではない、むしろ好きだ。でも、付き合いたいかと言われれば、何か違った。私と今井くんの好きは、多分違うのだ。


「聖は、俺の事どう思ってんの?俺に望みは、ないんかな。」
「…今井くんは、良い人だと思うし、好きだよ。でも…多分今井くんが欲しい“好き”とは違うねん。」


寂しそうに「そっか」と笑う今井くんに胸が痛くなる。
好きなのに、好きではない。なぜ彼ではいけないのか…分からない訳ではない。今井くんに「好き」だと言われた時に、全部気づいたから。


「好きな人がいるから、気持ちには答えられない。ごめんなさい。」
「…誰か当ててもいい?」
「え?」
「白石やろ。」


私の頭にさっきから思い浮かぶのは蔵ノ介ばかりだった。今まで気づかないフリをしていた。この気持ちに気づいてしまったら、何かが変わってしまう気がして怖かったから。


「はは、顔真っ赤やん。やっぱそうなんやな。」
「…うん、気づいたのは、さっきやねんけど。」
「俺が言ったから気づいちゃった感じ?皮肉なもんやなぁ。」


まいった、と今井くんは頭を掻いた。


「でもさ、付き合ってはないんやろ…ごめん、しつこいかもしれんけど、俺も本気やねん。無理ならハッキリ言ってほしい。ほんなら俺も諦めつくから。」
「…さっき、今井くんが言ってくれたの嬉しかった。私の事ちゃんと見てくれてるんやなって。」


今まではただただ好きだと告げられる事しかなかった。本当に私をしっかり見て好きになってくれた人なんていなかった。


「でも、今井くんが私を好きになってくれたのと同じように、私はアイツが好き。だから、答えられない。」
「そんなに、そいつが好きなんやな。」
「…うん、すごい好き、みたい。だからごめん。」
「いや、ええよ。なんとなく、そうかなって思っとったから。」


告白する人は、かなりの勇気を出しているのだとこの時初めて知った。今井くんは蔵ノ介と同じように、よく話す仲なのに。
私にはできなかった事を今井くんが今やっているのかと思ったら、真剣に答えなくてはいけないという気持ちになれた。
私が今まで断ってきた人たちも、もしかしたらすごく勇気を出してきてくれていたのかもしれない。


「伝えてスッキリした。そりゃ、すぐには諦めつかんけどさ、今まで通り普通に話してくれよ。」
「勿論。」
「ほな、先戻るな。聖も、身体冷さん内に戻りや。」
「うん、ありがとう。」


扉から出て行った今井くんを見送り、小さくため息を溢す。こんなに申し訳なさを感じたのは始めてだった。
屋上に備え付けられたベンチに座り、背もたれにグッと体を押し付けるようにして力を抜く。

不意に正面の扉が開く音がして、慌てて姿勢を正すとそこにはさっきまで話題の中心にいた蔵ノ介が立っていた。


「な、何してん…」
「綺羅が屋上行ったって聞いて、迎えに来た。告白かなーて。まさか今井だとは思わへんかったけど。」


今井くんの事も知っている…まさか話を聞かれていたのではないだろうか。


「き、聞いてた…?」
「いや、聞いてへんよ。そこで今井とすれ違った。」
「そ、そう…」


とりあえず一安心なのだろうか。蔵ノ介は私の隣に座ると学ランを脱いで私の肩にかけた。


「え、ちょ、寒いやろ!」
「ええから着とけ。戻る気ないんやろ。」


俺もカーディガン来てるから平気、と言われ、渋々学ランを借りる。私もカーディガンを着ているのに寒いので蔵ノ介もそうじゃないかと言うも、身体のつくりが違うと一蹴されてしまった。


「今井、仲良かったやん。」
「…!う、うん、でも、好きとは違うし。」


今井くんに聞いたのだろうか。告白の時の話を蒸し返されるとどうしても蔵ノ介が好きだということを思い出してしまい、いたたまれない。意識すると途端に緊張するもので、今までもドキドキはしていたがその比ではなかった。


「告白って、勇気いることなんやね。私、今まで適当に答えたりして…なんか申し訳なくて。」
「でも、優しくしすぎても相手が諦められへん。お前が昔俺に言ったことや。」
「あは…せやったな。私ら最初、お互いの告白の断り方で言い合いになったりしたやんなぁ。」


『仮にも好きになってくれた相手に対して感謝の気持ちとかないんか!』なんて、あの頃はただただムカついて何も思わなかったが、正論だった。


「俺だって、ずっと告白できひんもん。」


その言葉は私を凍りつかせるには十分だった。
ちょっと前までは“気になってる”ではなかったか。


「…………前言ってた人?」
「おん、意地張ってただけでホンマはずっと好きやった。でも告白する勇気は俺にはないねん。だから、俺も分かる。みんな、凄い事やってのけてるんやなって。」


私が蔵ノ介に告白したら、断られるのだろう。だって、好きな人の話をする蔵ノ介はこんなにも優しい顔をしているんだから。どんなに仲が良くても、今まで通り仲良くなんて絶対になれない。どこかに気まずさが残るのは目に見えていた。

だから、もう少しこの友達の関係で甘えていたい。
弱虫な私は、まだ先に進む勇気が持てないから。

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