34

目が覚めると真っ白な天井。見慣れない景色に私は違和感を覚える。身体は鉛のように重たく、起き上がる事は難しそうだ。
ここはどこなのか、目線だけ動かすとベッド脇の椅子に座るお父さんと目があった。


「おはよう、綺羅。」
「……、と…さん…。」


口を開くも上手く声が出なくてビックリする。お父さんは困ったように笑うと、私の頭を優しく撫でた。


「綺羅、何があったか覚えてるか?」
「くるま……こど、も…!」
「うん、綺羅が助けた子供は無事やって。怪我一つあらへん。」


車に轢かれそうになった子供を助ける為、無我夢中で道路を飛び出した事を思い出した。あの後に轢かれて、ここに運び込まれたのか。子供に怪我がなくて本当に良かった。顔の筋肉も少し解れて来たのか、次はすんなりと声を出すことが出来た。


「しらいしは?」
「白石くんは家に電話してくれて、それから昨日夜遅くまでずっといてくれたんやで。テニス部のみんなにも連絡してくれてな、桃子ちゃんたちも来とった。」
「めいわく…かけちゃったな…。」


楽しい1日で終わる筈だった。まさか最後の最後にこんなことがあるだなんて。


「迷惑やのうて、心配、な。部活終わったら来てくれるって。それまで寝とき。」


現在の時刻は15時30分。部活は後30分で終わるだろうから、1時間ほど眠れるだろうか。


「きたら、おこして。」
「分かった。おやすみ。」


お父さんの優しい声を聞き、私はゆっくりと目を閉じた。



****************



部活が終わり、部室で着替え終わった俺はケータイを確認するとメールが1件入っていた。聖の父親からのようだ。


『お疲れ様。綺羅、さっき起きたからもし時間あったら来たってや。』


俺は着替えもそこそこに急いで帰り支度をし、「聖が起きた!」と雑にチームメイトに報告をするとその返事も待たずに部室を出た。慌てて追いかけてくる謙也たちと一緒に校門へと向かうと、女子テニス部メンバーと鉢合わせる。


「あ!白石!病院行くんか!」
「うん、聖起きたって。」


行こう、と言うと日向さんはよっしゃ!と元気よく跳ねついてくる。石戸は未來ちゃんに声をかけ、手を引っ張って連れて来た。聖が起きたという報告を受けた未來ちゃんは嬉しそうな顔で俺たちについて来ている。


小走りのまま向かうこと10分で病院まで着くと、昨日聖ご運び込まれた個室へと足を進めた。


扉をノックして開くと、ベッドに横になる聖の顔がこちらを向いた。聖のお父さんもおり、「お疲れ、みんな」というと俺たちにベッドの脇を譲る。


「聖……。」


ベッド脇の椅子に座り聖に話しかけると、弱々しい笑みを浮かべ口を開いた。まだ少し呂律が回らないのか、辿々しい言葉を紡いでいく。


「れんらくしたり…ありがとう。ごめんね。」
「俺は何も…」
「わたしはだいじょうぶ。みんな、ありがと。きてくれて。」


ベッド脇の石戸に聖は顔を向けた。


「ごめん、たいかい。」
「綺羅…!ううん、あんたの分まで頑張るから、気にせず休んで。」
「綺羅先輩…!全国まで行くので、見に来てください…。」
「うん、たのんだ。」


未來ちゃんの言葉を聞いた聖はヘラリと笑顔を見せる。少し身じろぎするたびに微かに顔を顰めるあたり、まだ全身に激痛が走っているのだろう。
やるせない気持ちでいっぱいだ。こいつの為に俺が今できることは何だろう。考えても考えても、思いつかなかった。

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