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姉のプレゼントを買った後も、俺たち2人はショッピングを楽しみ、歩き疲れるとカフェに入りお茶をしながら休日を過ごした。
聖と2人きりでこんなに長時間一緒にいて、こんなにたくさん喋ったのは初めてだったが、最初から最後まで楽しく感じた。


「もう17時!?はや!」


街中の大きな時計を見た聖が信じられないというように叫び声をあげる。


「あぁ、晩御飯作らなきゃ…。」
「いつも聖が作ってんの?」
「うん、お父さんは遅いしね。料理は好きやけど、今日みたいに1日出かけてた日とかはちょっと億劫かな。」


そういって彼女は苦笑いを浮かべた。今日のご飯は簡単にグラタンにするらしい。料理ができない俺からしたら、グラタンで簡単なのか…という気持ちだ。聞くと、お父さんと自分のお弁当も毎日聖が作っているというではないか。毎日部活もやってて、家の家事も殆どこなしているのかと俺は心底驚いた。家に帰ったらご飯もあって、洗濯も掃除もしなくても問題ない環境は幸せなんだと、彼女を見て実感する。

明日も府大会に向けて朝から練習がある為もう解散することにし、今は駅に戻る道を2人歩いている。駅に着いて、電車に乗ったらもうあと少ししか一緒にいられない。
俺は無意識のうちに、歩くペースを落としていた。


「明日ね、練習終わったら部室でたこ焼きパーティーすんねん。」
「えっ、器具あるんか?」
「恵が持って来るって。そこまでしてやりたいん?って感じ、ふふ。」


口に手を当て控えめに笑う聖。今日何度目かも数えていないが、心の中で可愛いと呟く。白石たちもやる?と誘われたので、俺が男子たちにも声をかけることにした。

駅前の大きな交差点に差し掛かり、信号を渡ろうとしたら青信号が点滅を始めた。俺と聖は顔を見合わせると、ダッシュで横断歩道を渡る。大きな道路だったのでその分横幅も広く、しっかり走らないと間に合いそうになかった。


「間に合った!」


聖の楽しそうな叫び声が隣から聞こえる。大きな横断歩道を渡りきった瞬間、パッと信号が赤に変わった。ギリギリ…と呟き、駅の入り口へと体を向けたのと同時に、横を小さい子供が通り過ぎて行くのが見えた。


俺が事態を理解したのはその数秒後だ。
小さな男の子が走って赤信号を渡ろうとしているのが見え、全身の血の気が引いた。車側の信号はたった今青に変わり、大きな道路にたくさんの車が行き交う。


「…っ、あかん!」


俺が頭で理解して動き出したのが遅すぎた。小さな子供はすでに道路に飛び出した後で、そこを大きなトラックが勢いよく向かっている。

もうダメだ、と諦め掛けた瞬間、子供の体がフワッと浮き上がり、手前側の歩道に投げ出された。慌ててその体をキャッチし胸に収めると、突然のことに驚いたのか泣き出してしまう。

今の一瞬で何があったのか。俺の止まっていた思考は、子供越しに見えた光景により更に停止する。
鳴り響く急ブレーキ音。子供を道路外に引っ張り戻したのは聖だ。

反動で代わりに道路に投げ出された聖の身体が宙に舞うのを、俺はただ道路脇で見ているだけだった。

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