19

「本当に、ごめんなさい。」


コートで部活の準備をしていた私に近づいてきたのは曽川だった。「ちょっと、いい?」とフェンスの外から話かけてきた曽川に、桃子や恵が何か言おうとしたのを手で制す。
曽川の傍に行くと、頭を深く下げ、彼女は謝った。


「いや、顔あげぇて。」
「無理や。ホンマに、とんでもないことしたって思ってる。」
「ええから!」


私は曽川の頭を掴むと嫌がる曽川を無理やり上向かせた。その光景は傍から見たら滑稽だっただろう。


「もう分かったって…!」
「わかってへん!」
「いやそれ決めるの私やろ!」


謎な言い争いが続き、二人は息も切れ切れになる。私、この後部活なんだけどな…なんて、無駄な体力の消費を嘆いた。


「…私な、悔しかったんや。同じクラスで、席も近くて、劇も一緒にやって…白石くんには沢山アピールしてきたつもりやった。でも、喧嘩ばかりのアンタと話してる方が、白石くん楽しそうでな。」
「楽しそう…かは分からないけど…」
「私から見るとそう見えるで。あんたも分かるやろ。白石くん、私とかと話す時は一線引いた感じあるやん。」


“八方美人”―私が最初に白石に抱いた印象だ。私は言葉が出てこず、曽川を見つめる。彼女は下げてた目線を上げ私の目をしっかりと見た。
こんなにしっかり彼女と目が合ったのは、初めてかもしれない。


「でももう諦めもついた。白石くんはずっと…」
「ずっと?」
「…気になってる人の事、見とるから。」
「え、曽川誰か知っとんの?」


驚いた声を上げると、曽川は意味深な笑顔で「いつか分かる。」と言い残し、テニスコートを後にした。
「聖!」と白石が駆け寄ってきたため、私は小さくなる曽川の背中から目線を外して白石を見る。


「…大丈夫か。何か言われたか。」
「謝ってくれた。もう白石の事諦めたって。」
「いや、それはええんやけど…」
「もう大丈夫。仲良くなれそう。」


は!?と素っ頓狂な声を出した白石。
“一線引いている”…か。曽川も気づいていたのか。私が白石の顔をマジマジと見つめると、白石は少し照れくさそうな顔で「なんや」と言った。


「いや、白石が気になってる人の事ずっと見てるって曽川が言うとった。」
「は、はあ!?見てへんわ!!ていうかそんな奴おらん!!」
「否定遅すぎやん。」


誰?というと顔を真っ赤にさせ私を睨んだ後、ドスドスと男子コートへと戻っていった。心配して駆け寄ってきてくれたのに、少しからかいすぎただろうか。


「白石!ありがとうな!」


お礼を叫ぶと、驚いたように振り向いた白石は気まずそうに視線をそらし、軽く手を上げるとまた私に背中を向けた。

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