18

部室の鍵を開けると、真ん中の机を囲んで私たち4人はそれぞれ腰掛けた。女子の部室に初めて入る白石と忍足は、少しソワソワしながら部室を見渡す。


「なんや、同じ間取りなのに雰囲気ちゃうなぁ…」


忍足は新鮮なものを見たような顔でポツリと呟いた。


「あんまジロジロ見るなや忍足。変態。」
「は!?なんやねん石戸!!見てへんわ!」


見てへんは嘘やろ、と苦笑いを零す私。4人が席に座り落ち着いたところで、初めに桃子が切り出した。


「あんな、綺羅。ほんまに言いたくないんやったら、無理せんでええ。私らも何となくやけど分かったから。でも、もし白石が関係してるんやったら、白石にはちゃんと話したってほしい。」


桃子の言葉に、俯く白石の顔が少しだけ動いた。私は首を静かに振り、3人を見る。
ここまで心配かけておいて、何の説明もしないなんてあり得ない。もう曽川が犯人だと言うこともバレているのなら、大方の事情はみんな察しているのだろう。白石のこの態度が何よりの証拠だった。


「最初な、曽川に呼び出されたんよ。それは…2ヶ月前くらいかなぁ。あんた白石の何なん?って。白石は優しいから、勘違いすんな〜って感じのこと言われた。そん時は、優しいかなぁって思ててんけど。」


おい、という白石は少し拗ねた表情をしており、桃子と忍足もクスリと笑う。


「まぁ、そんなん聞く気もなくて無視してたわ。したら1ヶ月前くらいから、上履きに悪戯されるようになったんやっけなぁ。泥とか、ハサミで切られてたりとか。あとは鞄とか机にゴミ詰められたり、教科書に落書きされたり、地味なのばっか。」
「ゴミ…とかもやったんか……。」
「うん、でもまぁすぐ飽きるやろって全部無視してた。それが甘かったのかもしれへん。この前、トイレで水掛けられてから、少し後悔した。」


私と桃子が体操着で午後の授業を受けていたことは白石も忍足も知っていたが、私たちがあまりにもあっけからんとしているものだから嫌がらせなんて全く頭にも浮かばなかったという。
付き合ってくれた桃子には感謝してもしきれなかった。


「それでも私の態度が変わらへんから、あいつもついに限界が来て、この前の準備室の件があったって流れやな。」


私が「これね」と髪の毛を触ると、白石は顔をしかめて机の上に置かれた拳をさらに強く握り締めた。


「あんな、多分こんなになったんは私が煽り過ぎたのもあんねん。曽川が一方的にブチ切れたんとちゃうよ。」
「せやけど、それで綺羅が髪の毛切られるのはおかしいやろ!」
「ま、髪はやり過ぎやな。でもさ、私結構この髪型気に入ってんねん。だからもう気にしてない。これホンマやで。別に白石に気ぃ遣ってるんとちゃうからな。」


結構好評やねんけど、と忍足に振ると「おん、最高やで」と眩しい笑顔を返される。


「まぁ正直似合い過ぎてビビってるで、私も。綺羅がそう思ってんなら、私ももう何も言わへんよ。」
「うん、ありがとう、桃子。」


今からなら2時間目行けるなぁと言い立ち上がる桃子に、「ゲッ次数学やで…」と嫌々ながらも忍足が続いた。忍足は未だに無言の白石をチラリと見ると、「聖」と私に声をかける。


「落ち込んどる白石の面倒みたってや。」



え、と私が声を零すのと、忍足が部室を出て行くのは同時だった。スピードスターをこんなところで発揮しなくても良いじゃないかと思う。桃子も「頼んだで」と言うと部室のドアを静かに締めていき、私と白石だけが残された。


「白石、さっきも言ったけど私はもう平気やし、あんたは何も悪ないで。そんな思いつめんと…」
「俺のせいやろ!!俺が、もっとハッキリ断っとけば…」
「いや、あれは何て断っても結局逆恨みで私に来てたと思うで。あいつの中では私があんたと1番仲良いらしいから。運が悪かったんよ、私も、白石も。」


白石は思いつめた顔で机に置かれた自分の拳を見つめている。それは力強く握っているせいで、指が白くなっていた。


「あのさ、あんた責任感強いから、気にするかなーって、そういう顔見たくないなーって思ったから、言わなかったんやで。私の努力が無駄になるから、その顔やめて。無駄、嫌いなんやろ。」
「……お人好し。」
「いや、そっちやろ、それは。」


今日初めて、白石は笑った。


「それにあんまり髪の毛が髪の毛が〜言われると、これ似合ってないんちゃうかなって心配になるから。まぁ、白石は髪長い子の方が好きらしいけど。」
「は?なんやそれ。」


曽川が昨日確かに言ってたはずだ。白石は髪が長い子が好きだと。言うと白石は、あぁ…と気の抜けたような返事をした。


「シャンプーの匂いがする子が好きって話はした。したら、長い髪の毛が揺れた時とかに香るのがええよなって近くにいた奴が言うたから、せやなって言ったんやけど、それかな。」
「成る程ね。」
「別にその子に似合ってれば何でも好きやけど。」
「好きになった子がタイプってやつね。」
「…まぁ、そうとも言うな。」


やっといつも通りになってくれた白石に、私はそっと肩の力を抜く。


「じゃあ、白石の好きな子はシャンプーの匂いがするんだ?」
「…っ、別に好きとちゃうわ!!」
「あぁ、じゃあ気になってる子がいるってのはホンマなんや。曽川に告白されてた時そう言うてたもんなぁ。」


顔を真っ赤にさせて慌てる白石が新鮮で面白く、ついからかってしまった。


「おっまえ、ガッツリ聞いてたんやな!」
「聞いてたやなくて、聞こえたの!」


私の笑い声と白石の叫び声が、部室の外まで漏れていたようだ。部室の近くを通りかかったオサムちゃんに見つかり、2人して授業をサボっていたことをこってりと怒られてしまった。

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