※校舎の構造など捏造しています


「太陽もさあ、」
「は?」
「ちょっとは夏季休業したっていいと思うんだよね」

手でつくった庇で眼に焼き付く強烈な日差しを遮りながら発した言葉に、隣を歩く月島は皮肉っぽく片頬を持ち上げた。ばかにしてやがる。しかしこの男ろくに汗かいてないな、なにでできてんの?と訝しむ気持ちは脇へやり、両手をふさいでいるゴミ箱を持ち直した。掃除のじゃんけんで負けるなんてついてない。私より先にまず月島が負けてゴミ捨て係第一号に決まったときはざまあみろと笑ったのに、まさかその直後に自分も後を追うとは。
教室からゴミ捨て場へ向かう過程に通る渡り廊下は床が打ちっぱなしのコンクリートであるためにちょっとしたヒートアイランド現象を引き起こしている。加えて今日は湿度も高い。すこしくらいバカな願望を口にしたくなったってそれも道理ってもんでしょう。

「雨が降ったら降ったで文句言うくせに」
「それはそれ、これはこれ」
「はいはいソーデスカ」
「…ツッキーはいつでも涼しそうでいいねえ」
「そういう半端に棘のある物言い似合ってないからやめれば」
「むかついた」
「だからなに」

一瞬ゴミ箱の中身をぶちまけてやりたい衝動に駆られたけれど不毛なのでやめた。
そうこうしているうちにゴミ捨て場に着き、大きなポリバケツにゴミを豪快に投入していく。私は不燃、月島は可燃。季節柄可燃の方がきついと思うんだけどゴミ捨て係第二号に私が決定したとき月島はとっとと可燃のゴミ箱を手にしていた。ただの偶然かもしれないけど、もしかしたらって考えてしまうくらいには月島の腹立たしい面以外にも触れてきたんだなあ、ってこんなところで振り返ることじゃないか。我に返って作業を済ませるとすでに一通り終わらせていた月島が待っていた。

「お待たせしました」
「ん」

月島の方へ歩み寄る途中、プールのある方から髪を湿らせた女子が数人小走りで駆けてきてそばを通り過ぎて行く。教室へ向かうルートはなにもここを通らなくても他にもあるけれど、ショートカットってところだろう。
彼女たちが駆けていく瞬間つんと塩素のにおいが鼻をついて、水着を突っ込んだビニールバッグを振り回して学校のプールに通った小学生時代の夏休みをふと思い出した。月島にもそんな頃があったんだろうか。想像がつかない。やっぱり今と変わらない涼しい顔してクロールだろうが平泳ぎだろうが難なくこなしていたのかな、それとも案外はしゃいで飛び込んだりしてたのかなあ。などと空想を膨らませていると頭上から怪訝そうな眼差しを感じたので、他愛ない言葉でごまかすことにした。

「いやしかしあっちーわ」
「他に言うことないわけ?」
「っていうほどまだ言ってないから!」

私の抗議を無視してひとつ溜息を落とした月島は、不意に私の手首をつかむと自分のすぐかたわらへと引っ張った。え、なんだなんだ。

「…日よけ」
「は?」
「…に、なってやるから少しはその口閉じれば」

思わぬ言動にすぐ横を見上げるとしかめっつらが鎮座していた。ただそのなめらかな輪郭を日差しがふちどってきらめいている。月って感じじゃないなあ、なんてぼんやり思ってしまった。ありがと、と言ってみれば「別に」と口を小さく動かして顔をそらす仕草は月島らしかったけれど。

独特のむっとする空気のにおい、きつさを増す気温、月島をきらめかせる陽の光。もう夏がすぐそこまできている。


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