『もう、会えなくなるかもしれない』

そう、私は友人に言った。
友人は引っ越すのか、とか聞いてきたけれど違う。

引っ越すのならかもしれない、なんて曖昧な言葉は使わない。
本当に“会えなくなる”かもしれないのだ。
それは友人に限った話ではない。
ただ一人を除いて私は他人に会えなくなるのだ。

それでも、構わないと私は思っている。

『…ふふ、迎えに来ました。主人公ちゃん!さん』

そう、黒衣の執事は艶やかな笑みを浮かべて私の名前を呼んだ。

『さぁ、行きましょうか』

貴方と私、他の誰にも見えない、邪魔されない場所へー…私には貴方だけで良い。ですから、貴方にも私だけで良いのです。

私の耳元でそう秘め事のように彼は囁いた。
彼の差し出す手を私は拒まない。
彼の布越しでも分かる冷たい手に己の手を重ねて握る。

『やっと、手に入りましたー…』

いつも澄ました彼が安堵した様に私の身体を掻き抱く。
痛く苦しいその愛を全身に浴びながら私は融けていく。

私にはもう理性もいらないの。

必要なのは彼と、私二人だけの世界一…。

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