「行っちゃった…」


ローズがポツリと呟く。

本当は、加勢に行きたいんだろう。

でも隊長は『ここから出るな』と言った。

これは命令だ。

僕もまた、動けない。メルトも然り。

「隊長が行ってくれたんだから大丈夫だよね?」

不安げに見上げるローズの頭を一撫でして、笑う。

「うん、きっと、ね」


そういう傍ら僕も一抹の不安を感じていた。


+++++++++




…隊長が出て行ってから幾ばくか経った。

もう2時間は経過したかな…





そこに。

コツコツ、ヒールでこの執務室に向かってくる音が聞こえ、僕たちは臨戦態勢に入る。

ヴァンパイアか―!?




ギィ―

蝶番が軋み、扉がゆっくりと開かれる。

「子猫ちゃん、みーつけた」

ニタリ。
黒いドレスを着た少女が、口端を大きく吊り上げ笑った。


それぞれ剣を握る手に力を込める。



「あぁ、待って待って。何も争うつもりはないのよ」


少女は何が面白いのか不気味に笑ったまま話を続ける。



「そこの子猫ちゃん、ニイナくんよね?彼をくれたら今日の所は皆撤退してあげる」

「…なっ!そんなの信じられるわけないでしょ!?大体、『はいそうですか』ってニイナを渡すわけないじゃない!」

ローズが吠える。

目的は僕…?何故。いや今はそれより―



「…いや、行くよ」


「ニイナ!?」

「ニイナ!何をいってるんだ」


二人が信じられないとばかりに叫ぶ。

「これだけ経って隊長が帰ってこないんだ。きっと敵の数が半端じゃないんだよ」

「でもっ」

「被害は最小限に。初歩中の初歩でしょ?」

くっ、と二人は呻いて下を向く。

「あら、物わかりのいい子。そういう子、好きよ」

僕の傍まで歩み寄ってきて、少女は白魚の様な手で僕の頬を撫でる。

そして彼女が指を鳴らすと、黒い空間が現れた。

少女は僕の背を優しくその空間へと押しやる。

「それじゃあ、ごきげんよう。またの機会があったら遊びましょう?愚かな人間共」



そして僕たちはそこから姿を消した。



+++++++++


「本当に、攻め込んできた奴らは撤退させてくれたの?」

「あら、アイリスは嘘つかないわ」

くすくす笑いながら踊る様に円をかいて、彼女<アイリス>はくるくる回る。

時折僕の手を取って巻き込みながら。


僕はその傍ら、頭で必死に考えていた。

此処は敵の要塞。見方はいない。構造も未知数。

さて、どうしようか―


「子猫ちゃん?考え事もいいけど行きましょう?彼(か)の方がお待ちだわ」




そして僕たちは二度目の再会を果たす。








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