「ただ今戻りました」
「おっかえりー!ニイナ!」
「お帰りニイナ」
扉を開け執務室に入ると、7番であるローズ、それから9番のメルトが迎えてくれた。
「お疲れ様、ニイナ。怪我は無いかい?」
声を掛けられ、二人から、一番奥の席に視線を移す。
「はい、隊長。しかし二人を逃しました。申し訳ありません」
隊長の言葉に、スっと跪き謝罪の意を表す。
「顔を上げて、ニイナ。無理をせず深追いしなかったことは逆に褒められた事だよ。君が無事に帰ってこれて良かった」
「はい、有りがたきお言葉」
僕は立ち上がると、一度頭を下げてから、自分の席に着いた。
僕たちの仕事は何も実戦だけではない。
書類を作成、処理していくのも大事な仕事だ。
僕としてはこちらの方が得意かな。
頭を使うのは好き。
なぜ僕が3番の番号を頂けているのか―
4:6くらいで、実践:知力と言ったところ、かな。
つまり戦略を練ったり、書類を捌くことの方が得意だったりする。
「ニイナ、俺とローズとニイナは今日からはしばらく書類整理らしい。ゆっくり休んでね」
メルトが微笑んで頭をぽん、と叩いてくれた。
「あー!メルト兄、私も私もー!」
「はいはい、ローズも頑張ろうな」
メルトがローズの頭も撫でてやる。
ローズは嬉しそうにすると今度は、僕に歩み寄ってきた。
「あ、あの…ニイナ、ニイナも…」
顔を赤くしてローズが見上げてくる。
「ん、いい子だね、ローズ」
ポンポン。
僕はローズの頭に二度手を置くと、ローズは満足したようでにっこりと笑った。
それから、書類の上を滑るカリカリとした音だけが響く。
僕はこの空気が大好きだ。
紙の擦れるパサリとした感触も、インクの匂いも、隊長の判を付く音も。
いつまでも続けばいいのに―
でも、それは叶わない願い。
ビービ―!
けたたましいサイレンが静寂を劈き、僕たちはバッと書類から頭をあげた。
『侵入者です。侵入者です。出動命令の各隊は直ちに目標を捕獲、及び討伐してください』
「ヴァンパイアか、使い魔か―」
隊長はデスクから立ち上がると傍らの剣を手に取った。
「俺は少し行ってくるよ。皆はそのまま書類の方、よろしく頼むね」
バサ―
隊長はコートを翻すと執務室の扉を開ける。
「あぁ。くれぐれもここから出ないようにね」
ニコリ。有無を言わさぬ笑顔でそう言い残して扉は閉められた。