「おやおや、これはこれはガウファじゃないですか。随分な格好ですねぇ。まさに無様とは君のためにある言葉ですね?」
「てめぇセリオン!」
ヴァンパイア<ガウファ>は顔を真っ赤にして烈火のごとく怒っているが、セリオンは聞く耳持たず、飄々としている。
「しかし」
クック、と喉で笑うと、セリオンは心底面白そうに言葉を紡いだ。
「なぜ人間の君が魔法陣なんて使えるのかな?」
やってしまった。
確実に討伐出来るからと、ガウファ以外に見られることなんて無いとタカを括っていたのが、アダとなってしまった。
まさかセリオンにバレるなんて!
「君は本当にいい。その手腕、知識、極上の血…そしてその隠された力」
ウットリと歌う様に話すセリオンに、逃げろと頭の中で警告音が鳴る。
でも此処で逃げれば秘密がバレてしまう。
コロサナケレバ―
「…君…眼が、赤色に―」
ザシュ―
「な、に?」
セリオンの右肩から血がじわじわと服を染める。
ピッ―
ポタタ。
ナイフを払うと、セリオンの血が地面に降った。
「く、く…はははは!やはり君は良い!」
狂ったように笑うセリオンを前に僕の頭はどこまでも冷えていた。
コロサナケレバ―
呪詛のように、それが延々とループする。
ピピ―!
「…おや、また邪魔が入ったね」
甲高い笛の音にハッとなる。
僕は何を考えて…?
「全く。もう少し遊んでいたかったのにねぇ。ほら、ガウファ、もう魔法陣は消えているんでしょう?動けるね?」
「ったりめぇだ!さっさとズラかるぞ!」
僕の意識が逸れたことで、魔法陣が消えたらしく、ガウファは自由の身となっていた。
でも、撤退するというのなら、深追いはよそう。
この間、隊長に言われたばかりだ。
「ふふ、今回は見逃してくれるんだ?じゃあお礼として今日の事は秘密にしておいてあげる。いいね、ガウファ?君も自分の失態を晒したくないでしょう?」
「ッチ」
「じゃあ、さようなら。また会おうねニイナちゃん」
シュン―
あっという間に二人は暗闇に姿を消した。
そしてバタバタと駆ける音がして討伐隊の皆が走り寄ってきた。
「大丈夫ですか、ニイナ様!」
「はい。こちらは問題ないです。それよりもレンの方を」
「了解しました!」
バタバタバタ―
また駆ける音を立てて、討伐隊の人達がレンがいるであろう方角に向かう。
ここで説明しておこうか。
僕たち討伐隊にもランクがある。
一番偉い総隊長、次に4人の隊長、そして隊長の下に13人の部下。
この13人の部下は、トランプ'sと呼ばれ数字が若くなるごとに強い順となっている。
僕はスペード隊の3番の地位を頂いている。
才能なんてなくて、それでも必死に鍛錬を積んで、頂いた地位だ。
僕は力を持っていなくてはならない。
大切なものを守るため、今度は失敗しないために。
話がずれたね、話を戻そう。
このどれにも属さない人たちは一般兵と呼ばれ、数は多い。
僕たちは隊長の指示で動くんだけど、彼らは主に総隊長の指示で行動している。
因みに総隊長の顔を見たものはいないと言われている。
勿論、僕も見たことはない。
ジ、ジジ―
無線の音が響きハッとする。
聞き逃さないように、耳に神経を集中させた。
『ニイナ。レンの方も問題ない。本部へ戻れ』
隊長からの指示に安心して、持ったままだったナイフをホルダーに戻した。
「了解しました、すぐ戻ります」
ジジ、ジ―
「ふぅ…セリオン達に知られたのは誤算だったなぁ。レンのタロットは本当によく当たる」
ふわり、風が髪を遊ばせるのを手で押さえて、本部へと足を踏み出した。