もう傷も完治し、僕は常務に戻ることが出来た。
「ニィ、今日は嫌な予感がする…気を付けろ」
そう言って僕の裾を引っ張ったのは、これでも身長180センチはあり(因みに僕は165センチだ)、僕より一つだけ年下のレンだった。
「タロット?」
「そう…」
レンのタロットは良く当たる。
今日はいつも以上に気をつけよう。
「ありがとう、レン。じゃ、気を引き締めていこうか」
コクリ―
レンが頷くのを見て、敵が出たと思われるポイントに急いで向かった。
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これは…酷い…
ひとつの街が炎に包まれ、見える限りの人々は皆倒れていた。
…出血死だろう。ヴァンパイの餌食になったのか…?
いつの事だったか、ヴァンパイアに噛まれた人間はヴァンパイア化するという話を聞いた事があった。
しかしそれは少し違う。
全ての人間がそうなるのではなく、ヴァンパイアに選ばれたものだけがなるのだ。
でないと均衡が崩れてしまうからじゃないかと僕は思っている。
ヴァンパイアが増える一方では、<エサ>を奪い合い、今度は仲間で殺し合わなければならないだろう。
「でも、妙だね。こんなに人間を殺したら自分たちの<エサ>が無くなるのに」
そう。大抵死ぬ前にヴァンパイア達は人間を解放する。
それはやっぱり、さっき僕が言った持論に当てはまるからだと思われる。
「レン、そっちは―…レン?」
レンがいない。
しまった、人間に気をとられ過ぎたか―
キィン―!
耳を澄ませば遠くから剣のせめぎ合う音が聞こえる。
「あっちか…!」
走り出そうとした刹那。
ガキィン!
剣の重い斬撃を、両足のホルダーから取り出したナイフで咄嗟に受け止める。
「どこ行くって?お前は俺の獲物だろうが」
にやり。
男は牙を見せて笑うと剣を振り切った。
少し体勢を整えて相手を見やる。
ヴァンパイアか…
「あーあー。使い魔のあほ共。<エサ>喰い散らかしやがって」
「…?あれはあなた達の仕業じゃ…なさそうだね」
「あったりめぇだろ?誰が<エサ>をみすみす殺すかっての!」
「でも、ヴァンパイアは見過ごせない。あなたにはここで死んでもらう!」
キンッ―
投げたナイフは弾かれた。
僕は次々ナイフを投げ続ける。
剣とナイフなら、超近距離に持ち越せばリーチが短い分こちらのものだ。
「ははは!お前おもしれぇじゃねぇか!いいぜ来いよ!返り討ちにしてやらぁ!」
「油断は死を招くよ」
ガクン、いきなりヴァンパイアの動きが止まった。
「なっ…これは、魔法陣!?なんで人間がこんなもんを…!」
「あなたが知る必要はない、死ね」
ナイフを振りかざす。
ヴァンパイアは目を見開いて只々それを見る。
―…僕の勝ちだ。
「油断は、死を招くよ?」
ゾクリ―
耳元で聞こえた冷えた吐息に背筋が凍る。
ひゅん!
すぐに背後へとナイフを振りかぶる。
「おおっと。怖いなぁ。もっと穏やかにいこうよ、ね、ニイナちゃん?」
うっそり。
その美貌で笑うにはあまりに妖しすぎた。