僕は、所謂「討伐隊」というものに所属している。

何を討伐するか…それはこの世に蔓延するヴァンパイアと呼ばれる怪物たちだ。


奴らは数年前からこの人間の世の中に姿を現した。


初めこそ、人間は奴らの猛威に成す術が無かった。

人口は減り、人間は奴らの<エサ>となるしかなかった。

しかしいつしか、人間は牙を剥く。


ヴァンパイアを殲滅するために訓練された、特殊な人間たちの集まり、「ブラッド・ロス」。

その組織がどうして、どうやってヴァンパイアに対抗するための力を持ったのか。


それを一部の人間を除いて、誰も知らない。

しかし人間たちは希望を持った。


いつしか昔のように過ごせる日々が来るのではないかと―




++++++++++++



「…ん…」

パチリ。

目を開けるとそこは一面真っ白な部屋だった。


あれ、僕…なんでこんな所に…


「あ!ニイナ起きたー!?よかったよう」

ギュー!

「あたた、ローズ、ちょっと力緩めて…!」

ギブギブ、というように少女<ローズ>の背を軽く叩く。

「あっごめんねニイナ…嬉しくて…」

ジワリ目じりに涙をためるローズの頭を撫でてあげる。

「大丈夫だよ、ちょっと大げさにし過ぎたね、ごめんね。ローズは悪くないよ。僕の事心配してくれたんだよね?ありがとう」

「うん、いっぱいいっぱい、心配した。ニイナ…無理しすぎだよう…」


ガラリ―


「その通り。無理しすぎだね」

「隊長!」

「やぁ、大丈夫かい?ニイナ」


この白い部屋の扉…―落ち着いてみれば医務室だと分かった―を開けて入ってきたのは、隊長のハクアさんだった。


「すみません…スパイの任務、失敗してしまって…」

「いや、あれはニイナのせいじゃないよ。内通者<裏切り者>がいたんだ。ニイナの行動を逐一ヴァンパイアどもに知らせていた奴がいてね。だから気に病む必要はない」

それよりも、と一段階して。

「もしバレた場合は、こんなになる前に逃げる手はずだろう?」

「で、でもあのセリオンが表だって出てきたんです!討伐しなくては―」

「でも死んだら元も子もない」

「…っ」

「みんな、ニイナが大事なんだよ」

「はい…」


今度こそ僕は言う言葉を見つけられなかった。

僕はまだまだ強くならなくちゃ―


とりあえず早く討伐隊に復帰できるよう傷を癒さないと。



僕は立ち止まっちゃいけないんだ…―






≪助けてにいな≫

≪いや、生きて、にいな≫

≪にいなは僕たちの光≫

≪大好きだよ、にいな≫




そう、立ち止まっちゃいけないんだ。





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