僕は、所謂「討伐隊」というものに所属している。
何を討伐するか…それはこの世に蔓延するヴァンパイアと呼ばれる怪物たちだ。
奴らは数年前からこの人間の世の中に姿を現した。
初めこそ、人間は奴らの猛威に成す術が無かった。
人口は減り、人間は奴らの<エサ>となるしかなかった。
しかしいつしか、人間は牙を剥く。
ヴァンパイアを殲滅するために訓練された、特殊な人間たちの集まり、「ブラッド・ロス」。
その組織がどうして、どうやってヴァンパイアに対抗するための力を持ったのか。
それを一部の人間を除いて、誰も知らない。
しかし人間たちは希望を持った。
いつしか昔のように過ごせる日々が来るのではないかと―
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「…ん…」
パチリ。
目を開けるとそこは一面真っ白な部屋だった。
あれ、僕…なんでこんな所に…
「あ!ニイナ起きたー!?よかったよう」
ギュー!
「あたた、ローズ、ちょっと力緩めて…!」
ギブギブ、というように少女<ローズ>の背を軽く叩く。
「あっごめんねニイナ…嬉しくて…」
ジワリ目じりに涙をためるローズの頭を撫でてあげる。
「大丈夫だよ、ちょっと大げさにし過ぎたね、ごめんね。ローズは悪くないよ。僕の事心配してくれたんだよね?ありがとう」
「うん、いっぱいいっぱい、心配した。ニイナ…無理しすぎだよう…」
ガラリ―
「その通り。無理しすぎだね」
「隊長!」
「やぁ、大丈夫かい?ニイナ」
この白い部屋の扉…―落ち着いてみれば医務室だと分かった―を開けて入ってきたのは、隊長のハクアさんだった。
「すみません…スパイの任務、失敗してしまって…」
「いや、あれはニイナのせいじゃないよ。内通者<裏切り者>がいたんだ。ニイナの行動を逐一ヴァンパイアどもに知らせていた奴がいてね。だから気に病む必要はない」
それよりも、と一段階して。
「もしバレた場合は、こんなになる前に逃げる手はずだろう?」
「で、でもあのセリオンが表だって出てきたんです!討伐しなくては―」
「でも死んだら元も子もない」
「…っ」
「みんな、ニイナが大事なんだよ」
「はい…」
今度こそ僕は言う言葉を見つけられなかった。
僕はまだまだ強くならなくちゃ―
とりあえず早く討伐隊に復帰できるよう傷を癒さないと。
僕は立ち止まっちゃいけないんだ…―
≪助けてにいな≫
≪いや、生きて、にいな≫
≪にいなは僕たちの光≫
≪大好きだよ、にいな≫
そう、立ち止まっちゃいけないんだ。