それから僕は一人暗い森を歩いていた。
逃げ切れたのは僕一人。
「…ライラ達はどうなったかな…」
お願い、生きてて。
もう僕は誰も失いたくない。
そうして、一年の月日が経った。
僕たちの再会の日。
それは決して、遠くなかった。
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ドン―
「ってぇなぁ!前見て歩けよ」
「あぁ、ごめんなさい」
僕は一年経って少しだけ大人になった。
それは身体的なものを指すのではなく、生きて行く術を身に着けたという話だ。
不幸の子供とばれないように、社交性と処世術を駆使して、僕は生きてきた。
今回も厄介事を起こさないよう、やんわりと謝り微笑む。
しかし別の意味で僕の素性はあっさりとバレた。
「…お、まえ…ニーナか…!?ニーナだよな!?」
被っていたフードをガッと掴まれ、口元しか出ていなかった顔が、全て露わになる。
そして視界に入ったのはかつての幼馴染だった。
「え…ライ、ラ…?嘘でしょう…?」
ライラがこんな所に、そんな、夢を見てるの…?
「お前、逃げ切れたんだな…!」
「ライラ、も…!」
ギュウ―
僕たちは人目も憚らず抱き合う。
「ライラ、助かったのは…」
「俺一人だ…ニーナ、お前の方は…?」
「…っ僕も、一人だけ…!」
「でも、生きてた」
そう言って笑って見せたライラに、あぁ、彼はなんて強いのだろうと涙が滲んだ。
しかし、
悲劇は、一度では止まらない。
「キャー!ヴァンパイアよ!」
「逃げろー!」
「ひっ、殺さないでくれぇ!」
ヴァンパイア。
彼らのエサは人間だ。
皮肉なものだね、小さな子供たちを虐殺してきた彼らが、今度は狩られる側だ。
≪話の腰を折るようだけど、一応言っておこう。この時、まだ討伐隊はいなかった。人間はただ狩られるだけの弱い生き物だったんだ≫
かくいう僕たちも、冷静に観察している場合ではなかった。
僕たちだって、立派なエサだ。
そう、魔の手はすぐそこまで来ていた。
僕とライラは必死に逃げていた。
後ろからはヴァンパイアが、獲物を嬲り殺すのを嬉々として追いかけてくる。
そんな時、不意に足音が減った。
「…ライラ?ライラ!」
すぐ後ろを走っていたはずのライラがいないのに気付いたその瞬間、血の気が引いた。
走って走ってきた道を少し戻り、そこで見た光景に目を見開いた。
ライラが、ヴァンパイアに、血を吸い取られている。
「ライラ…ライラァ!この、ライラを離せ!」
僕はヴァンパイアに向かって掴みかかる。
でも人間の、ましてや子供の僕の力なんて、ヴァンパイアには到底かなわなかった。
「邪魔だ!」
ドカ―!
お腹をもろに蹴られて吹っ飛ぶ。
「う、ライ、ラ…」
視界が霞む。
目を閉じてはならないのに、目を開けていられない。
僕は、非力だ―
僕はこの日、幼馴染をなくした。
折角、再会を果たしたこの日に。
そう。これが全ての始まりだ。