昔話をしよう。
僕たちはあの日、仲間を、失った。
それは今からずうっと前。
まだ幼かった頃の僕たちの話だ。
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「いたぞ、殺せ!逃がすな!」
「不幸の子供だ、絶対に仕留めろ!」
はぁはぁ―
数人の子供たちは息を切らせて必死に逃げていた。
「にいな兄ちゃん、もう僕走れないよぅ…!」
ある子が弱音を零した途端、私も、僕も、と皆が疲れを見せる。
「頑張って、もう少しで林に着くから、そこで隠れよう。―ライラ!後ろの子たちは皆来てる!?」
僕は声を少し上げて後ろのライラに呼びかける。
「あぁ、大丈夫だ!もう少しだ、皆頑張れ!」
ライラも後ろの子たちに励ましの声をかける。
はぁはぁ―
あと少し。あと少しで林だ。
皆は希望に顔を輝かせた。
ガサ―
「どこに行こうって?」
「―…!」
突然頭上に影が出来る。
そんな、なんで。
「不幸の子供がこんなにいやがったぞ!」
「皆殺しだ―!」
やめて。
僕たちが何をしたって言うんだ。
―ただ生まれが人間とは違うってだけで―
不幸の子供。
それは禁忌の子供を指す言葉。
人間とヴァンパイアのハーフ。それが僕たちだ。
人間は古くから不幸の子供を見つけては虐殺してきた。
負をもたらすとして、無抵抗の子供たちを殺してきたんだ。
「皆、逃げて!」
ガタガタ―
皆は恐怖に襲われ足が動かない。
「皆、逃げなきゃ!このままじゃ―」
ザシュ―!
「きゃあぁ!」
ドスッ!
「うあぁぁ!」
バサ―!
「いやっ、助け―」
なんで。
これは、なんだ。
顔に付いた何かを拭うと、視界が赤に染まる。
これは誰の血…?
どうして僕たちがこんな―
「助けてにいな」
涙を流しながら真っ赤に染まった体で助けを求める子。
「いや、生きて、にいな」
その子は僕に一番懐いていた子だ。
生きて?どうやって?
「にいなは僕たちの光」
僕は何も出来ない弱虫だ。
「大好きだよ、にいな」
逃げて、生きて。
また一つ涙を流して、その瞳は光を失った。
「うわあぁぁぁ!」
守れなかった。
大切な仲間を。
なにも出来なかった。
見ている事しかできない自分が、情けなかった。
「ニーナ!逃げるぞ!残った奴らだけでも逃がすんだ!」
「ライラ…」
そうだ。まだ仲間は、いる。
しっかりしなくちゃ。
「ライラ、バラバラに逃げよう!絶対に、助かるんだ!」
「あぁ!」
僕はまだ固まっていた子を背に抱いて走った。
「逃がすな―!」
「追え!一人も残すな!」
基本的に僕たち―不幸の子供―は身体能力が高い。
走れば大人たちでもそうそう追い付けはしない。
ハ、はぁ…―
ここまで来ればもう大丈夫、だよね。
「サズ、だいじょう―」
後ろに背負ったサズに声を掛けるが、あまりに静かで嫌な汗が流れる。
「サ、ズ…」
背から降ろした、サズの背には弓矢が深々と刺さっていた。
「なんで…そんな…何も声なんて」
―僕の為か―
声を出してしまったら僕が立ち止まってしまうから。
自分を犠牲にして僕をだけでも逃がしてくれようとしたの…?
「なんて、馬鹿な、優しい子」
ポロポロ―
涙が止まらない。
仲間を失った。
たくさんの仲間を。
―人間を恨んでは駄目よ―
いつかこうなるのが分かってたから、そういったの?母さん。
僕はどうしたらいいのか分からないよ。
誰か、助けて―
大事なものを失うには、僕はあまりにも幼かった。