「…ん…―」

何だか体が酷く重い。

それでも気怠く瞼を開くと、そこは一面、黒の世界だった。

カーテンから絨毯、果ては今いるベッドまで。

―そうだ。

なんでベッドなんかに。


「目が覚めたか?随分寝入ってたなぁ?ニーナ」

「ライラ…!」

そうか、そうだった。

僕はライラに負けたんだ。



「ラ、ライラ」

「お前の負けだったよなぁ。今からお前は俺の玩具だ。いいな?」

「待っ…」

「あぁ、俺に逆らったらどうなるか、最初に教えといてやろうか」


ギシ―

ライラがベッドに乗り上げた拍子に、ベッドのスプリングが鳴り響く。


ガッ!

「いっ…」

思い切り前髪を掴まれる。

そのままグッと顔を近付けられ、吐息が当たる距離にまでなった。

そして、徐に首筋に顔を埋められる。


「お前が俺に刃向えば刃向うほど、自分の首を絞めるんだとよく覚えとけ」


ブツッ―

「あ、あぁぁ!」

じゅる。

痛みが、それ以上に快感が、体を駆け巡り悲鳴を上げる。

嫌な水音に、また血を吸われているんだと分かった。

しかし分かった所でどうしようもない。

只々、過ぎる痛みと快楽に耐えるのみだった。


「あ、…ぅ、ン、はぁ…。あ、」


ズル―

もはや自力で座っている事も出来ず、ライラに凭れ掛かる。

ドサ、と乱暴にベッドに投げ出されて、これから何をされるのか分からずカタカタと体が震えた。


コンコン―

「チッ。んだよこんな時に」

ライラは僕から退くと扉へ向かい、少し開けて誰かと二言三言、言葉を交わす。

僕とライラ達との距離では内容までは聞き取れなかった。


バタン。

些か乱暴に扉を閉めるとライラは再び僕の元へと歩み寄る。


「残念だがここまで、だ。俺は出てくるが、自分の身が可愛いなら、間違っても逃げようなんて考えるなよ?」


くくっ、と笑うとライラは傍らに置いてあった剣を腰に装着し、身なりを整えていく。

僕は力が入らない体に鞭を打ち、なんとか上半身を起こした。


「ライラ!僕は―」

「じゃあな、いい子で待ってろよ?ニーナぁ」


ガチャ、バタン!

僕の呼びかけを無視して、ライラは部屋を後にしてしまった。


「ライラ…」


僕はどうしたら…

ヴァンパイアは敵だ。

本当はすぐにでも出て行って殲滅するべきなんだろう。

それが、相手がライラだと、すぐに決意出来ない。

僕は、弱い。

ライラ。

僕は君とは戦いたくないよ―


ポタリ。

一滴、雫がこぼれ堕ちた。








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