声が聞こえる。
悲しいか―
悲しい。
声からして男だと思う。
悔しいか―
悔しい。
顔は見えない、ただ声だけが聞こえる。
力が、欲しいか―
欲しい。
耳に意識を集中させる。
その身を捧げてもか―
こんなくだらない体、いくらでもくれてあげる!
僕に力を、全てを守れる力をちょうだい!
すると声の主は笑った。
いいだろう、ならばお前は今から私の使い魔だ―
使い魔…?お前、ヴァンパイアか!
誰がヴァンパイアなんかの手下になんか…!
だったら殺しに来い―
憎いヴァンパイアの私から施された力で、私達を殺して見せろ―
あぁ、殺してやるさ…全員殲滅してやる!
そこで意識が浮上する感覚に、あぁこれは夢だったのかな、と自嘲した。
++++++++++++
「はっ…はぁ、ァ、う」
くっくっく。
ライラの喉奥で笑う声が響く。
「まさかお前が使い魔になっていたとはなぁ?使い魔に対しての吸血行為には快楽が伴う。セリオンにもそんな顔を見せたのか?あ?あいつ、お前の血は極上だって言ってたぜ」
つう、と噛み跡をなぞられ肌が粟立つ。
そういえばいつだったかの戦いの最中、セリオンに血を飲まれた。
しかしそれは、剣先に付いた血を舐められただけだ。
「ははははははは!」
目の前のこれは誰?本当にあのライラなの?
10年でお互い、変わってしまったんだね。
もうあの頃の様には戻れないのかな。
僕は、討伐隊。ライラはヴァンパイア。
僕は狩らなくちゃいけない。
守るために。今度こそ、守るために。
守りたかった存在は、目の前にいるっていうのに?
じわり、目じりに涙が貯まる。
こんな再会ってあんまりじゃないか。
二度目の再会、その時はお互い幸せに天国で笑いあうって思ってたのに。
「ヴァンパイアはみんな殲滅させなくちゃならない」
「いいぜ、来いよ。その代わりお前が負けたその時は俺の玩具として生きて行く覚悟で来るんだな」
僕は涙を拭って、かつての友に剣を向けた。
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キン、キイイン、ガキン!
剣がせめぎ合う音が鳴り響く。
どこまで行っても終わりが見えない。
僕は軽く絶望しかけていた。
ヴァンパイアは通常、最低2人で狩るのが基本だった。
隊長クラスなら一人でも勝てるが、13番クラスでは一人の場合、追い詰めるのがやっとだった。
それに…
先ほどの吸血行為で、僕はまともに立つのにも必死だった。
それでもこの円舞は止められない。
でも、終わりは来る―
床が光って魔法陣が一気に広がった。
しまった…!地雷式魔法陣だっ…
脚から蔦に絡まれて身動きが取れなくなる。
「チェックメイト、だ。ニーナ」
そこで歪つに笑うライラを見たのを最後に視界が黒く塗りつぶされた。