『終わったらいつものとこね』

それだけですべてを察せられるようになったのはもうずいぶん前のことだ。
最初は同僚として少し会話を交わすだけの関係が次は仕事終わりに酒を酌み交わす仲になり、最近ではとうとう恋仲にまでなった。そうなったのはやっぱり酒の席ではあったけれど、なりゆきかと問われるとそうでもない。
私と木舌は別に特別気が合うという訳ではなかったが互いの質(たち)が合った。似た者同士とかいうのではなく、真逆だからこそ魅かれたのかもしれないと思う。


「あーー名前ー」

「お前、ペース早すぎじゃないか」

通された店内ですでにでき上がっていた木舌を見た私はげんなりとした。業務が終わってからまだ二時間程も経っていない。だというのにカウンターには空き瓶が一本と、のみかけであろうジョッキが一つ。しかもそれももう半分もない。
さしずめ、私を待っていようと瓶にしたがそれが空になるころにはもうどうでもよくなっていたのだろう。ジョッキだって空になれば店員がもっていくからこれが何杯目になるのかわからない。

「いつかビール腹になってもしらないからな」

「はは、それはいやだなあ」

私の小言を笑って軽く流して、早く座れといわんばかりに隣の席を引いた。半ば冗談で言っているのもあるが本気で言うこともある。それは時々でしかないが、彼は稀なそれを察してくれる。今は完全に冗談だ。
そうして私が上着を抜いているあいだに木舌は残り少なくなっていたビールを一気に飲み干し、いつ頼んだのかタイミングよく運ばれてきた二つのジョッキを受け取っていた。彼の飲み方は見ていて気持ちがいい。

「明日は休みか」

「そうそう、じゃなきゃこんな飲まないよ」

いや、いつも通りだろう。おもわず突っ込みを入れたくなったがそんなことより渡された酒を飲み干すほうが先だった。木舌のそれに軽くかち合わせて一気に呷る。
彼のようにカキ氷や白米にもビールをかけたがるほどの酒好きではないが、仕事の後にのむ酒は好きだ。最初の一杯が格別で、勢いよくのどを滑っていく感覚がたまらない。
そうして一気に飲み干したグラスを置いたところで、こちらをじっとみつめていたらしい木舌の視線に気がついた。

「おいしい?」

「ああ、美味しいよ」

素直にうなずけば彼はもともと緩みきっていた顔を更に嬉しそうにほころばせた。この酔っ払いが。
しかし心の中で悪態をついても、子供のようにあどけなく笑う木舌についつられて私の顔も緩んでしまう。
ペースを崩されるのはいつも私の方だった。
これが惚れた弱みかというには私はそう経験があるわけではないからわからないが、そうなのかもしれないと思う。
相変わらずペースを崩すことなく豪快に酒を飲み干す彼にまた、笑みがこぼれた。





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