名前という女は自分の魅せ方をよく心得ていた。
それは故意にではなく、自然に。違和感なんて微塵も感じさせずに懐に潜り込んでくるそれは猫によく似ていた。見目の愛らしさを武器に、好奇心で差し出された手に何かを期待しつつもしかしどこか警戒したような眼。けれどその手が自分に害がないと悟った途端に身を委ねてしまう。良いのか悪いのか、普通の人間ならば到底できそうにないその芸当を難なくやってのける。彼女には恐らくプラスに働いているのだろう。名前を見ていればわかる。これまでそうやって生きてきた証だ。
そうして自分も気づかぬ間に彼女の’悪癖’に絆された一人なのかと、腕の中に納まる名前を視界の端に捉えつつふと思った。

「眉間にしわ寄ってる」

おもむろに伸ばされた手が眉間に触れる。柔らかく温かな指はゆっくりと、眉の間に刻まれていたらしいそれを揉み解す。何を考えていたのか悟られたのか。同時に思考までもを解し、うやむやにしてしまうようなそんな手つきだ。

「何考えてたの?」

…怒ってるのかと思った。そう言ってへらっと笑んでアバッキオの首元に頬をすりよせる。
きっとこいつは何もわかっていない。他人の侵入を決して許さないアバッキオがこうしている意味を。抱き始めている感情を。

「お前にはわかんねえよ」
「言うと思った。」

そうしてまた彼女は曖昧に笑うのだ。俺の何もかもを理解したような口ぶりで。







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