手にしたガーベラを主とした可愛らしいブーケに視線を落とし、獄寺は目的の家のインターホンを押す。
ピンポーン……
すると、カチャリと音が響いた後に、可愛らしい声がスピーカーから聞こえる。
『はい』
「獄寺です。お届けものを……」
『今、開けます』
スピーカーからの音が途切れると、すぐに玄関のドアを開けて左仔が姿を現した。
そんな左仔に、獄寺は小さく頭を下げる。
「獄寺くん、どうしたの?」
左仔が問えば。
獄寺は手にしていたブーケを左仔の方へと差し出す。
「10代目からです。おめでとう、と」
「……え?」
訳が分からない、というようにキョトンと首を傾げる左仔に、獄寺はふわりと微笑む。
「今日は、左仔にとっては記念日でしょう?」
言われて左仔は考えて、ああ、と思い出す。
そうだった。
忘れていたけれど、今日は左仔にとっては大切な記念日だった。
「10代目が、覚えていてくださいました。花を届けるように、と」
「ありがとう……」
左仔は、差し出されたブーケをそっと受け取る。
自分でさえも忘れていた記念日。
それを、綱吉は覚えていてくれて、獄寺を使ってまでこの花を届けてくれた。
それが嬉しくて、左仔ははにかんだように笑い、もう1度お礼を言う。
「ありがとう、獄寺くん。それに、ツナも」
左仔のその言葉に、獄寺は驚いたように背後を見る。
すると、家の近くの角から綱吉が姿を見せる。
「10代目っ!?」
「左仔、気付いてたの?」
「ツナが、獄寺くんを1人で寄越す訳ないかな、って思って」
くすりと左仔が笑う。
長い付き合いなのだ。2人のことはお見通しの左仔だった。
「左仔にはかなわないなー」
「そうですね。10代目、」
ネクタイが曲がっています、と。
獄寺はさりげなく綱吉のネクタイを整える。
「ツナ、わたし獄寺くんからお花もらっちゃったけど、良いの?」
綱吉のヤキモチ焼きを知っている左仔が問えば、綱吉は優しく笑った。
「今回だけ。左仔は特別」
見れば、獄寺も同じように優しい笑みを浮かべている。左仔が知り合った時からは考えられないくらい、獄寺は丸くなった。
それも綱吉の影響なのだろう。左仔は微笑ましく、そして嬉しく思う。
「じゃあ、左仔。俺たちはこれで」
「うん。忙しいのにありがとう」
「どういたしまして。おめでとう。これからも頑張ってね」
澄み切った空のように笑う綱吉が眩しくて。左仔は目を細めた。
仲良く肩を並べて帰っていく綱吉と獄寺。
周りに内緒で付き合っている2人。
マフィアのボスと、その右腕という、常ではあり得ないような肩書きを持つ2人だけれど。
左仔の、大切な友人たちだった。
【END】