「やっぱり深夜は大浴場もすいてるねー」
「そうっスね」

 春休みも終わりに近づいたその日、綱吉と獄寺は、有名な温泉地に来ていた。

 ことの起こりは数日前。
 綱吉の家庭教師であるリボーンが提案したのだ。
 いわく「いつもお世話になってるママンにプレゼント」だそうで、ビアンキやちびたちも一緒に連れて行くが、綱吉と獄寺は同行を命じられたものの、費用は自腹とのことだった。
 綱吉は、それだったらいっそ獄寺と2人きりで旅行がしたいと思ったが、そんなことを言ったらリボーンに何をされるか分からない。

「お前も一緒の方がママンも喜ぶからな。仕方ない。その代わり、ツナと獄寺は2人で別部屋にしてやるから感謝しろ」

 恋人である獄寺と2人部屋というリボーンの言葉に喜ぶも、さっそくダメツナぶりを発揮して、旅行費用が無いことに気付く。
 それを何気なく獄寺に愚痴れば、獄寺は、任せてください、と胸を叩いた。

「その費用、10代目の分もオレに出させてください!」
「ええっ!? ダメだよそんなの。悪いよ」

 綱吉は慌てて首を振って辞退しようとするけれど。

「お願いします! 日頃のお礼にプレゼントさせてください!」

 お礼されるようなことはしていないとか、いつも自分の方が甘えているとか、いろいろ言いたかったけれど、土下座する勢いで獄寺が言うものだから、言葉に詰まってしまう。

「じゃあ、今回だけ。甘えちゃおうかな……」
「! ありがとうございます!」

 小さく呟くように言えば、獄寺はガバリと顔を上げ、キラキラと輝やかんばかりの綺麗な笑顔を見せる。
 それを見て、まぁ良いか、なんて思ってしまう綱吉なのであった。


 そんな訳で、冒頭のセリフに戻るのだ。


「早めに入って、部屋でゆっくりするってパターンが多いんでしょうね」
「ふふ、そっかぁ。なんか貸し切りみたいで嬉しいね」
「そっスね」

 獄寺が実は、平静を装いながらもどぎまぎしていることに、綱吉は気付かない。だからこそ、無邪気に笑いかけたり出来るのだ。
 温泉に入って上気した肌。薄く華奢な身体のラインがあらわになり、加えて薄暗い照明が綱吉の艶っぽさを引き立てていた。
 いつ誰が入ってくるか分からない状況で、綱吉のこの姿は、獄寺には目の毒だ。もはや拷問と言っても過言ではない。

「……っ! すみません10代目! オレ湯中りしそうなんで先に部屋に戻りますね!」
「う、うん。気を付けてね」

 ざばりと勢い良く立ち上がった獄寺に、綱吉はあっけにとられながらも頷いた。

「失礼します!」

 逃げるような獄寺の背中を呆然と見送る綱吉が、ちょっと残念そうな顔をしていたのは、獄寺には見えなかった。

 それからすぐに、シャンプーした髪にドライヤーをあて、悪戦苦闘して浴衣を着付けた綱吉が部屋に戻ると、獄寺が土下座して待っていた。『三つ指ついてお出迎え』ではなく、完璧に『土下座』だった。
 綱吉は慌てて獄寺の前に膝をつく。

「ど、どうしたの獄寺くん!?」
「申し訳ありません、10代目!」

 やはりと言うか、獄寺の口をついたのは謝罪の言葉。

「10代目を誤魔化すなんて出来なくて……! オレ、そんな目で見たら失礼だって分かってるんですが、風呂に入ってる10代目を見て欲情したなんて言えなかったんです!」

 申し訳なさそうにそんな恥ずかしいことを暴露する獄寺だが、その言葉に、綱吉はほんの少し安堵する。
 何度か肌を重ねたこともある恋人同士だというのに、先程の温泉では、綱吉の方を見ようとしなかった獄寺。綱吉は、とうとう飽きられたのかと、不安だったのだ。

「獄寺くん、顔上げてよ」

 むしろ穏やかな心で、綱吉は獄寺に声をかける。
 獄寺は、怒られた子犬のような目をしてゆっくりと顔を上げた。
 すると。
 ちゅっと軽くリップ音をたてながら、綱吉の唇が獄寺のそれに一瞬重なった。

「じゅっ……、じゅうだいめっ!?」

 己れの口元を軽く手で押さえて真っ赤になり、獄寺は慌てたように綱吉の名を呼ぶ。
 綱吉は、少し拗ねたように獄寺を上目遣いで見上げ、言うのだ。

「俺だって、温泉入ってる獄寺くんにドキドキしたよ。そんなの当たり前じゃん」

 恋人同士なんだし、と続ける綱吉を、獄寺はおもむろに抱きしめる。

「……すみませんでした……」
「うん……」

 綱吉が抱きしめ返そうとすると、獄寺は綱吉の身体をふわりと抱き上げ、既に敷かれていた布団の上へと運び、ゆっくりと寝かせる。

「……獄寺くん?」
「恋人同士、ですから。ね? 10代目?」
「…………っ!」

 綺麗ににこりと笑った獄寺の瞳に情欲の色を見付け、綱吉の身体はぞくりと震えた。
 襟の合わせ目からするりと入り込んできた獄寺の手に胸の突起を弄ばれ、抱かれ慣れた身体はすぐに反応を示す。

「は……んぁ、や……」
「浴衣ってエロいっスね。ああ、10代目。もうこんなですか?」

 触れてもいないのにカタチを変えつつある綱吉のモノに、獄寺は微笑んだ。

「や……、言わな…で……」
「10代目……可愛い……」

 獄寺の手に反応し、愛情を伝えてくる綱吉の身体が。可愛くて。綱吉が愛しくて。
 獄寺は、浴衣の裾を割って下着を取ると、ソコに口付けてそのままためらいもなく口に含んだ。

「ひゃっ……! あぁ……っ!」

 突然の、あたたかいぬりりとした感触に、綱吉はびくりと跳ねる。

「や………だ、めぇ……」

 裏筋を舐めあげられ、ちゅくちゅくと音を立てながら吸われ、舌先でくすぐられて、綱吉の思考は真っ白になる。

「や………、あっ、あぁ……っ!」

 まだまだ幼い綱吉は我慢がきかず、あっという間に弾けてしまう。
 その白濁を口に受け止めた獄寺は、愛しそうにそれをこくりと嚥下した。
 それを察し、綱吉は顔を真っ赤に染めて両手で隠す。

「10代目?」
「……それ、恥ずかしい、から……」

 まだ整わない息の下から抗議すれば。

「いつものことじゃないですか」

 こんな時ばかり強気な獄寺がさらりと答える。
 たしかにそうだけれども。でも、恥ずかしいことに変わりはない。

「10代目……」

 やけに真剣な表情になった獄寺に名前を呼ばれ、綱吉は顔から両手を外す。
 すると、獄寺は綱吉の後ろの蕾を指でそっと撫でる。

「こちらを使わせていただいて、よろしいですか?」

 疑問形で聞いては来るが、綱吉には頷く道しか残されていないのは分かっている。
 恥ずかしさを堪えてこくりと頷けば、獄寺は自分を受け入れさせるべく、そこを解し始める。

「ふ……、んぁ、……ぁ」
「ここですか? 10代目、気持ちイイですか?」
「あ………ぅん…っ」

 最初は1本だった指が、2本3本と増やされ、綱吉の弱い所を巧みに突いてくる。
 綱吉はその動きに翻弄され、ただ、甘い声を洩らすことしか出来ない。
 やがて指が抜かれると、熱くて質量のあるモノが蕾にあてがわれる。

「力、抜いててくださいね」

 獄寺が優しく言い、次の瞬間には綱吉の中へと侵入を始める。

「んぁ……っ! あぁ!」

 押し出されるように、綱吉の口から喘ぎが洩れる。
 それでも獄寺は動きを止めることはなく、ゆっくりとすべてを綱吉の中に埋め込む。

「分かりますか、10代目? 全部入りましたよ」

 そう言いながら、獄寺は繋がっている場所の縁をゆるりと撫でてやる。
 敏感になっている綱吉は、ぶるりと震えた。

「ふあ……っ!」

 そのまましばらく動かなかった獄寺だが、やがてゆっくりと抽挿を開始する。

「んぁっ! ……あっ、ふぅ……っ!」

 少しずつ早く激しくなる動きに、大きくなる快感に、綱吉は思わず掴まっていた獄寺の肩に爪を立てる。
 その痛みさえも、獄寺には甘い快感だった。

「10代目……愛してます!」
「ふ……っ! 俺、も……っ」

 告げて一際強く奥に叩きつけると、同時に達した綱吉の中が締まり、獄寺も熱い欲望を注ぎ込む。
 繋がりを解かないまま、2人して呼吸を整える。
 獄寺は、綱吉が申し訳程度に着ている浴衣の帯をしゅるりと外し、裸の身体を抱きしめた。愛しい愛しいという想いが溢れてきて止まらない。

「ごくでらくん……。あしたの朝は、いっしょにお風呂にはいろうね」
「………はいっ!」

 綱吉がそんな可愛いことを可愛い笑顔で言うものだから、獄寺の繋がったままのモノが質量を増し。

「あ……っ!? ごくでらく……」
「10代目……」

 もう1度、と耳元でささやく獄寺の言葉を、綱吉は拒むことは出来なかった。


【END】
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