それは、綱吉と隼人が付き合い始めてから1年が経った頃のことだった。
「合鍵?」
隼人が差し出してきたものを見て、綱吉が首を傾げる。
「はい、あの。こ、恋人という関係になってもう1年ですし、記念のような意味も込めて……」
「受け取っても良いけど……。俺、いつも獄寺くんと一緒に行動してるじゃん。今までも必要無かったし、使わないかもしれないよ?」
「ええ、でも、なんとなく……です」
たぶん、恋人同士が合鍵を交換することに憧れのようなものを抱いているのだろう。
意外に乙女だな、と思いながら綱吉が受け取った合鍵は、やはり使われることは無かった。
それから更に数年の時が過ぎて。
綱吉は悩んでいた。
ここはボンゴレ本部の綱吉にあてがわれた部屋。勿論、守護者たちにも同じように部屋が与えられている。
当然ではあるが、プライバシー保護の意味も込めて鍵がついている。
そこで、綱吉は綱吉なりの問題に直面したのだ。
「どうしよう……」
綱吉は手にした鍵を見つめて呟いた。
マスターキーではなく、合鍵、である。
かつて、『合鍵』に妙なこだわりを見せた隼人に、渡すべきか渡さないべきか。
躊躇ってはみるものの、既に作った合鍵を無駄にするのもバカバカしい。
というより、合鍵を作った時点で綱吉の気持ちは固まっていたのだけれど、いざ隼人に渡すとなったら恥ずかしさがこみ上げてきたのだ。
「大丈夫。自然に、自然に……」
きっともうすぐ、隼人がドアをノックする。
「隼人――……」
早く君の笑顔が見たい。
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