先輩の整った綺麗な顔が、今はやけに近くにある。
そしてその丸くて大きな目に捕らえられていた。もちろん気が気ではない状況下におかれている。

上目遣いってまさにこれを言うんだろうなっていう挑発的な目が、俺の自制心を試しているようで、ただただ居心地が悪い。


「…はい、これを壁ドンといいます。」

「いや、そんなのいいからどけ……じゃなくて、どいてください…。」


放課後いつものように生徒会室へ来ると、そこにはみょうじ先輩の姿しかなかった。

他の役員はどうしたのかと聞くと、返答でも何でもない、「壁ドンって知ってる?」という突拍子もない言葉をぶん投げてきた。

訳も分からず目を白黒させて突っ立ていると、その小柄な体のどこにあるんだって力で強引に壁際に追いやられ、今に至る。


「…塚原くんってけっこう背高いんだね。身長いくつ?」

「や、だから、どいてくださいって…。」


華奢な女の先輩を突き飛ばすわけにもいかず、それに両手で行く手を阻まれてるから逃げ道が無い。
隙をついてすり抜けるのが良策かもしれないが、隙を与えるような素振りを見せそうにない。

そもそもみょうじ先輩とは恋仲でも何でもない、ただの同じ生徒会役員の先輩後輩。強いて言えば俺が一方的に気になって意識してるだけだ。

吹っ切って告白なんてしても、フラれるのは目に見えている。ただ見てるだけ、話すだけの距離感でちょうど良かった。

なのに、なんで今はこんなに至近距離で見つめられてんだ俺!
心当たりもねえし、何考えてんだこの人…!


「あーもう、なんスか!用あるならさっさと済ませてもらえませんか!」

「うーん、用かぁ……。
…あ!そういえば、眼鏡取ってコンタクトにはしないの?新しい私デビュー☆みたいな。」

「…するつもりねえっす。…それより用件をですね…。」


俺の話なんて聞こうともしない。
今日は一体どうしてしまったのだろう。
何かがあったのだろうかと考えてみても、俺は先輩のことなんて何も知らない。
趣味は何か、休みの日は何してるのか、……彼氏はいるのか。


「はーいちょっとじっとしててー」

「うわ、ちょっと!」

白くて細い指が伸びてきて反射的に目を瞑る。すると確かに眼鏡が奪われるのが分かった。
その眼鏡をどうするのか見ていれば、当たり前のように自分のシャツの襟元に柄の部分を引っ掛けたのだ。もちろん少ないながらも重力が働いて、幸か不幸か必然的に胸元が際どく見え隠れしている。
男でしかも高校生という年頃であるが故に思わず見入りそうになる邪念を必死で吹っ切り、そういえばと先輩の様子を伺う。

裸眼でも分かるくらい、先輩は俺の顔をじっと見つめている。
心なしか、頬が少し赤らんでいる気がする。


「…なん、ですか」

「………」

「…先輩?」

「……チッ」


チッ?
今確かに聞こえたのは音は舌打ちだろうか。


「なんで舌打ちしたんスか」

「あーもう!台無しだよ!最悪!」

「…は?」


まったく意味が分からない。
ただあっけに取られていると、やっと俺の前から撤退してくれた。撤退というか、早足で部屋の隅まで行ってしまった。

近付いたり離れたり、行動すべてが謎だ。


「あの、全然ワケが分からないんですけど」

「私もワケ分かんないよ!」

「何がですか」


と聞くと、何故か俺より遥かに怪訝そうな目を向けられる。そりゃこっちがしたい顔だ。
そしてその場にうずくまって小声でブツブツしゃべりだした。

しばらくその様子を見ていても事態は好転せず、なかば自暴自棄で先輩のもとへ歩み寄る。


「先輩どうしたんスか…」

「…怒らない?」

「内容によるんじゃないっすかね」


笑うもんか。こんだけ動転させられて笑う気が起こるわけがない。
早く、奇行の理由が知りたい。


「…塚原くんの困った顔が見たかったんです」

「は?」

「うわぁごめんなさいごめんなさい!」


俺の若干トゲのある返答に身の危険を感じたのか、勢いよく顔を上げて謝ってきた。

眼鏡が無いせいでよくは見えないが、少し涙目になっている。


「そしたらあんな顔みせられて…!私はもう…もう…っ!」

「あんな顔…?」

「…あーもう!!はいこれ返す!!」

「おわっ!」


手のひらに置かれた眼鏡を俺に突き出され、おずおずと手に取り、装着する。


「これから学校で眼鏡取っちゃダメだからね!」

「はぁ?なんでッスか!」


「先輩命令です!」

「いや理由になってないですけど…。」





‐どんでんがえし‐

なにその素顔の破壊力!聞いてないよ!






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なんだかよく分からんことになってますが、

要くんの困った顔が見たい→眼鏡取る→眼鏡無しの顔がかっこよくてビビる→\立場逆転テッテレー/
っていうのが書きたかったんです…はい……。






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