ひらひらと舞っていた桜も散り、ジメジメとした季節がやってきた。あまり好きとは言えないこの季節。早く終わってほしいものだ。
終わって欲しいのは、この季節のことだけではない。
私は今、クラスの日直。所謂雑用をしている。雑用自体は別になんとも思わない事務的なものだ。
雑用が心底嫌だ。というわけではないのだ、問題は一緒に雑用をしている相手。聖書(バイブル)こと白石蔵之助のことだ。頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗、努力も惜しまない。更に誰にでも分け隔てなく優しい。…ように見える。が、私は彼が女子に向ける、あの笑顔がどうも胡散臭くて信用ならない。
ほら、今もその張り付けたような笑顔で話しかけてくる。…、私は彼が苦手だ。
というか、嫌いだ。それも、大がつくほど。
別に理由もなく、嫌っている訳ではない。白石のある一面を見てから嫌いになってしまったのだ。それまでは普通に尊敬や憧れは持っていた。が、その一面がそんな尊敬や憧れなどどうでも良くなってしまうほど衝撃的だったのだ。
なんというか、白石は…、ゲスいのだ。女の子に対して。
女の子は皆俺が好き、それが当たり前やろ?と言ったような態度。まぁ、それはただのナルシストだからまだ許せる。
だが、奴が最近やっている遊びがなんともゲスいのだ。その遊びというのが、クラスの女の子全員から告白されること。
確かに、彼ほどの容姿や人望があれば無理な話ではない。軽く笑いかけ優しくすれば大抵の女の子は落ちるだろう。白石からすれば軽い遊びなのかもしれないが、女の子達は全力で恋しているのだ。その気持ちを弄ぶような行動をしているこいつが私は大嫌いだ。
しかも、今回のターゲットは私らしくいつも以上に接触が多い。うざい。
そんな、張り付けたような笑顔に落ちていく女の子達の気持ちも私には到底理解できなかった。
「俺のことどうおもっとる?」
あぁ、本当にこいつのことが嫌いだ。
「大嫌いやで。」
私は最高の笑顔でそう返し、書き上げた日誌を持ち上げ、鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔をしている白石に戸締まりよろしくとだけ告げ、教室を出た。
I really hate you. episode1
(あんたが大嫌い。)