城下町から跳ね橋のみで行くことのできる由緒正しい歴史ある王宮。
 跳ね橋が降りるのは月に二度。毎月行われる国王の演説の日と、商人が献上品を納める日の二日だ。他国からの来訪などの例外を除けば、この跳ね橋が降りることはない。それにより王宮の情勢を知る国民は少ない。国土の広い国であるから、王宮から離れれば離れるほどそれは顕著に現れた。
 俺から言わせてもらえば、この国の政治は既に腐り落ちている。更に言うならもう土に還っているだろう。他国への侵略を善しとしない政治を掲げているが、友好を結んだ国々は次々皇や世継ぎが倒れ、吸収されていく。国民はその理由を知らずに、ただ、不幸な国を救った我が国王万歳と王への信望を更に厚くする。
 他国が吸収されていくのには理由がある。
 王はそれを隠蔽し、その力を欲しいままにしている。そして王は自身では制御できないその強大な力を見誤った。
 強大な力を持ったのは、王と違わぬ、一人の人間だったのだ。

 ○

「何か弁解があれば申してみよ、ジュダイ!」
「ございません。全ては私の過失で御座います」
「貴様ぬけぬけと! この様な事は前代未聞じゃ!」

 趣味の悪い真っ赤な絨毯に平伏する俺を怒鳴り付けるは、国王補佐のじじい。政治を理解も施行もしない国王に代わり頭を使う御立派な御老人だ。
 しかし俺に過失はない。未だ一人で怒鳴り散らすじじいを無視してこれからのことを思案する。

「奴が命を落としたら貴様の命運もそれまでと思え!」
「承知してございます」
「ならば直ちに連れ戻せ! 他国に情報漏れようものなら真っ先に貴様の首が飛ぶと心得ろ!」
「承知いたしました」

 身体を起こし見上げた先には真っ赤な顔のじじいと同じ色の空の玉座がぽつり。

 ○

 零級魔導師。逃げ出したのは存在を隠蔽された一人の人間だった。名前はセンリ。一見すれば何処にでもいるただの若者。俺はその監視役として四年間彼と毎日のように過ごしてきた。
 人殺しを善しとしない彼は、自分の手で死んでいく人々を哀れんだ。しかし何人殺しても彼の心は純粋なままだった。
 零級魔導師は強大な力を持つがために、簡単に死なないよう様々な医術を受ける。何代か前の零級は右胸にも心臓を埋め込んだそうだ。最近では寿命を極端に遅らせる医術が主流であり、彼もこれを受けていた。
 同時に、彼の監視役である俺もその医術を受けた。ただ、彼が死んだ時点で俺も死ぬと言う契約の下で。
 この四年間彼にはひどい仕事を数えきれないほどやらせてきた。主に人殺しだが、その八割が自国民だった。
 隣国吸収を戦争と唱え、反旗を翻す革命軍。彼らの総指揮官を二人、軍の目の前で八つ裂きにしたのも彼の魔導だ。人殺しが嫌いな癖に、どうしたらあんな惨い殺し方ができるのか。人を殺したことのない俺には解らないし実際興味もない。俺はただ、センリが救世と銘打って反逆者を殺してくれればそれでいい。それで俺も生き永らえるのだし、苦しんで、俺のいるところに帰ってくればそれでいい。大嫌いな俺しか頼ることができないセンリは、人を殺した罪悪感に打ちのめされて俺を楽しませてくれればそれでいい。

「さて、どこから探してあげようかな」

 独りごちた俺の声はいやに楽しそうであり、それが滑稽で笑ってしまう。
 さあ、センリ。


 愉しい鬼ごっこのはじまりだよ。



end

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(C)神様の独り言 2010.7.1
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