「初めまして僕はティーン。君の名前は?」


 初めて顔を合わせたのは、彼が16の時だった。



 ○

「センリ、起きて。仕事の時間だ」
「今日は、ない、って」
「隣国の要人……を装ったスパイが来ているんだ。悪いけど動いてくれないかい?」
「……無理」

 捲られた毛布を取り返してもう一度寝返りを打って丸くなる彼。容赦なく再び毛布を奪い取る。

「悪いけど動いてくれないかい?」
「……」

 寝呆けた顔でこちらを一睨みすると、彼は渋々起き上がりクローゼットからスーツを一式引っ張りだす。

「……僕今日は休みなんだけど」
「悪いけど、って言っただろう。大丈夫。術を掛けて事情を吐かせるだけでいいから」
「……」
「センリ、」
「……」
「釦、掛け違えてるよ」
「……!」

 悔しそうにまたこちらを睨む。

「怒るなよ。センリのこと1から10まで管理するのが俺の仕事なんだから」
「頼んでない」
「センリはね」

 また睨まれる。俺はセンリに嫌われている。それはわかっている。

「知ってる。ティーンは僕の頼みなんか聞いてくれないんだ」
「センリの言うことを聞くのが、俺の仕事じゃないからね」
「それも知ってる。でも僕が休めばティーンも休めるでしょう?」
「俺は休みはいらないよ。センリといるのは楽しいしね。本当、良い仕事を貰ったよ」

 また黙って着替えを続けるセンリ。長く伸びた前髪で表情は伺えないが、考えていることは大体判る。

「今回の仕事は城内でやるから外には出ないよ」
「……別に、外になんて」
「勝手に居なくなるのはやめてよ、センリ。センリには束縛系の魔導はあまり効かないんだから」

 仕事の最中に、センリが逃げることはこの三年間何度もあったことだ。その度に好きじゃない魔導を使う俺の身にもなってほしい。

「ティーン」
「なに?」
「行ってくる。謁見室?」
「の隣の魔導室」

 ぱたんと閉じた扉。
 その扉を見つめながら初めて会った時のことを思い出す。
 あの時は先代が死んだすぐ後だったから俺の声なんか耳に入っちゃ居なかったんだろうけど、センリはちゃんと自ら名乗ったし、初めの内は俺に興味も持っていた。
 それも零級の仕事が本格的に始まると、日に日に口数が減っていたけど。それでも話すのを止めなかった俺は、日に日にセンリに嫌われていった。
 それが俺の仕事だった。
 四六時中一緒にいる唯一の対話相手から絶望的なまでに追い詰められる。嫌でも仕事に専念させる状況まで追い詰める。壊れて、使い物にならなくなっても、また働きに行かせるのが俺の仕事。

『……ティーン』

 仕事が終わって部屋に戻って、もう人を殺したくないと泣きそうな声を出すセンリ。


 本当、良い仕事を貰ったよ。



end

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(C)神様の独り言 2010.7.1
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