才能なんてなかった。力なんてなかった。普通の人間だった。
 ただ少し、ほんの少しだけ違うだけだった。僕は自分のこの目が嫌いで仕方なかった。

 ○

「やぁ、センリ。調子はどうだい?」
「……いつも通り」
「そう、それは素晴らしいね。じゃあ仕事だ」
「……」
「一年以上続けてきた成果が出るんだよ。今日でこの仕事は終わりだ」
「……」
「浮かない顔だね。笑っていたらいい。どうせいつか死ぬ相手だったんだから」

 僕がやっているのは国にとって邪魔な存在を抹殺する仕事。もちろん自分で望んでなんかやってない。
 三年前までは、僕は普通の只の王宮支えの一級魔導師だった。それが目を掛けられて今は零級魔導師。表柄は死んだことになってる。
 手足に枷なんか付いてなかったらこんなところ逃げ出している。
 魔導を、人殺しに使いたくない。

「ヤンザバークの皇子の臓器はあと心臓だけだろう? それを消して早く楽にしてあげなよ」
「……ティーン」
「なんだい?」
「皇子が死んだら、僕休暇がほしいな」
「それは無理な相談だね。零級は多忙なんだから。センリも解ってるだろう?」
「……少しの間、人を殺したくない」
「センリは人を殺してなんかないよ」

 この国の連中は狂ってる。腐ってる。人殺しを正当化する方法をいくらでも持っている。

「センリは国を救う、立派な立派な救世主だよ」

 救世主。
 僕の瞳はかつて世界を安定に導いた救世主様と同じものらしい。琥珀色をしたこの目は、この世界には今のところ僕しかいない。
 僕はこの目が大嫌いだ。


「センリ。この仕事が終わったら今度はもっと簡単な仕事をしよう」
「……人殺しはいやだ」
「簡単なゴミ掃除だよ」
「人殺しは嫌だ」
「さぁ、いっておいで。巧くできたらご褒美をあげよう」
「いらない」
「何が良いかな。右腕も新しくするかい? そうだな、心臓をもう一つ埋め込むのもいい。センリには長生きしてもらいたいからね」
「ティーン」
「なんだい?」
「僕は今すぐ死にたいよ」
「本当、意志のある人形は面倒だね。先代を見習いなよ」
「……あの人はだってもう、」
「しかし彼女はもったいなかったなぁ。せっかく名家の出なのに、精神が簡単に壊れてしまったんだからね」
「……ティーンは人を殺したことある?」
「ないよ」
「……」
「いくらでも湧いてくる雑魚を殺しても意味ないだろう? 血は途絶えさせることにこそ意味がある。例えば、センリ。君のその瞳だ」
「……」
「それは誰もがほしがる瞳だよ。伝承では未来が見える。ね?」
「……僕にはいつもの廊下しか見えないよ」
「じゃあそれが君のこれから先の未来だ。……逃がさないよ、センリ」



 今でも思い出す、あの時の記憶。
 ティーンは僕の仕事の仲介みたいなことをしていて、仕事の有無に拘らず、毎日のように会って話をした。それは決して、楽しいものではなかったけれど。


 ○

「美人なガキがいるもんだなー」
「……何が」
「ん? センリの第一印象」
「……僕の顔なんて、鼻から下しか知らないくせに」
「俺はセンリの瞳には興味ないから」
「……」
「センリは? 俺の第一印象」
「……覚えてないよ」



 長く伸びる白髪が隠した鼻筋とか、軍服に隠れた身体が意外に逞しかったとか、本当は色々あったけど。


 ナイフみたいで怖かった。


end

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(C)神様の独り言 2010.7.1
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