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 黙ったままの私を、仲澤は訝しげに睨み付けている。瞳は揺れ動き、躊躇いを感じ取れた。

「私の目的は、人が人を殺さぬ世を迎えるために人殺しを排除すること。戦う意思を持つ者が国を治めたのではまたいつか、戦乱が巻き起こる。巻き込まれるのは力のない人間だし、笑うのは常に武力を持った人間。そういう人間は、これから来る時代には必要ない」
「そんな時代が来るのだと、本当にそう思っているのか?」
「来る。来ないなんて有り得ない。あの人がいつか来ると言ったのだから、私はそれを信じて突き進むだけ」

 言い切ってからしまったと思った。顔には出さなかったと思うが、仲澤は私の失態を逃さなかった。勘がよくて厄介なところも変わっていない。

「あの人ってのは、お前の上司か?」

 問い掛けに私はだんまりを決め込む。答える必要はない。先生のことを話す必要もない。
 口を開かない私を一瞥すると、仲澤は溜め息をついた。意外な行動だ。そして腰に下げている得物の柄を右指で撫で上げ、数センチそれを引き抜き滑らかな刀身を露にさせた。

「本当はこの場で切り捨てたいくらいの怒りがある。しかしお前に明確な目的があることは理解したし、その目的に対する強い意思も感じた。その刀に誓え。目的を果たす以外の戦いはしないと。俺も自分が間違いだと思ったことは絶対にしないと誓う」

 仲澤はその得物によく似た鋭い視線で私を突き刺す。仁王立ちして刀を抜くその様はまさにこれから戦場で朽ちる戦士のようであった。
 私は静かに首を振る。

「私の刀は何かを誓うのには人を殺しすぎた。あんたみたいに、きれいな得物を持った人間ばかりじゃないのよ」

 そう言ってからその場を離れるべく踵を返す。僅かとはいえ刀を抜いた敵に背を向けるのは死を意味するが、仲澤は背後から人を斬るような人間でないことを知っていたし、何故かそれを信頼できた。

「仲澤。あんたはいい奴だね。人殺しであることに変わりはないけど、なんとなく、佐野に似てる」
「佐野?」

 仲澤が求めるように問い返してきたが、私はそのまま歩みを早めて人混みに入った。
 早く終わらせてしまおう。いつまでもこのままでは、気が狂っておかしくなってしまいそうだ。





(C)神様の独り言 2010.7.1
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