叶わない願いを押し付ける



 いつも通学路にしている道では、私と同じ年の子が愉しそうに自転車をこいでいる。ブルーのスカートとリボンが風に揺れて、すごく可愛い。私はあの制服が着たくて高校を選んだのだ。友達もたくさんいて、恋に走って、部活動でも充実して。時々勉強もして。
 思わず溜め息が漏れる。

「私ももっと遊びたいなあ。可愛い服もたくさん着たいし、美味しいものもたくさん食べたい」

 隣に座る華奢な男に言葉を投げる。ここ一ヶ月ちょっと私のそばから離れない男だ。

「そうだね。でも、それは叶わないよ」
「私にも五十日目が来ればいいのに」
「そうだね。でも、君がいくらここで待っても、五十日目は来ないんだよ」

 妙に優しい口調で現実というか、事実を突きつけられる。私はもう落胆なんてしない。このやり取りはこの一ヶ月とちょっと何度も繰り返してきた。この男は私が欲しい言葉なんてくれないのだ。この通学路も、憧れた制服も、仲のいい友達も、もうどれか一つさえも私を見てはくれなかった。
 男の首から下げられている懐中時計を覗き込めば、大きな針が三を指している。
 私は立ち上がった。

「さよならをしなくていいの?」
「うん」
「どうして? 他の人はしているよ」

 男は興味なさそうに訊ねる。彼は私を正しく導くために寄越された使者。私が五十日目を待ち続けることがないように導く人。
 問いに笑って答えてみせた。

「さよならを言ったら、私が本当に死んだみたいだもの」


end


タイトルは「空をとぶ5つの方法」さんからお借りしました!

拍手ありがとうございます! 大変励みになります!
コメントがございましたらこちらにお願いします



(C)神様の独り言 2010.7.1
All Rights Reserved.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -