「そこに居るのは誰だ」



泣き続けていたため嗚咽が酷かった
だけど名前を呼ばれてさっきの幸村で敏感になっていた僕の真剣は一気に研ぎ澄まされ物陰に身を潜めた


「大丈夫、俺は殺してねぇから」


聞き覚えのある声
安心して再び泣き始めた
叫び声に近い泣き声にその声の主は飛んできた



「ユウっ!」

『じゃ、っかる…』


蹲り震える僕を抱えるとジャッカルが心配そうに声を掛けた


「なにがあった」


抱えられながらさっきのことを思い出した
青い髪
黄色いジャージ
僕等の柱で
最強の


『ゆきむらが…っ』


涙が止まらない
それ以上は言えなかったけれどジャッカルはそれだけで察してくれた


「あぁ、さっき放送で名前が……」

『幸村の、見た…』
「死ぬ瞬間をか?」
『違う、死体…』


怖かった
仲間だったのに
僕は幸村と知ってもなおあの場所に戻れなかった


『ほんとなら…っ、戻って、ゆきむらをどっかに……埋葬すべきだった…』



出来なかった
今までお世話になってきたのに
一番頼って苦労もかけたのに

"死体"と言う言葉が体を硬直させた
昨日までは肩を組んで歩いた仲間でさえ
屍になってしまったら触ることさえ拒んでしまった


「ちがう!俺でも…俺でもできねぇよ…」


あの場に戻りたくなかった
見たくなかった



「行くぞ!いつまでもここに居たら今度は俺等がやられちまう」


ジャッカルが無理矢理僕を立たせる
フラフラになりながらも立ち上がるとジャッカルが僕の腕を掴んで走りだした


「お前を仁王に届けるまでは守ってやる」



さっきまで居た建物は"禁止エリア"と言うものになるらしく
僕とジャッカルはエリア外のちょうど良い建物の中に入った


身を屈めて座り込むと僕もようやく落ち着いてきてまともにジャッカルと話せるようになった



『誰がこのゲームに賛同してるんだろ…』


幸村が死んでいたと言うことは
誰かが幸村を殺したと言うこと


「俺は、青学の1年が無表情で誰かを打ってるのを見たぜ…」
『越前君……』


殺やなきゃ
殺られる

脳では分かっていても
少ない年月ではあるが今まで培ってきた常識がそれを拒む

ありえない
人を殺していい訳がない



「知ってるか?戦場では人を殺すのは良い事だって言われ続けるんだぜ」
『え…?』
「罪悪感をなくす為に国が兵士にそう教えるんだ」
『そんな…』


残酷な…


「だからその兵士達は戦争が終わって日常生活に戻る時に苦労するんだってよ」


ジャッカルが空を仰いで呟いた


「俺達、無事に生き残っても正気でいられるのか…?」


僕も思わず壁に背を預けて割れた窓の外を仰いだ
青い空
綺麗な綺麗な
青い色

幸村みたいな…

そこまで考えて考えるのをやめた



「そういえばユウの荷物、何が入ってたんだよ」
『へ…?あぁ、なんだろ』


背負っていた鞄を下ろして中を開けた


『お菓子…と水筒と、地図と…』


まるで遠足に行く時の荷物
だけど一番奥底に入っていたそれを見て言葉を失った


「ユウにはリボルバーか…」

大量のお菓子の下に隠れるようにしてあった拳銃と
お菓子の量に負けないくらい大量にある銃弾


「一応殺さないとしても鞄の中じゃ暴発してもおかしくねぇから持っとけ」

ジャッカルに言われて素直に拳銃を取り出した


重い…
人生初めて拳銃を持った
これで人を殺すのかと思うと怖かった

銃が重いのは単に構造上だけでなく
命の重さも圧し掛かってる気がした



『ジャッカルは―』


言いかけた刹那耳を突くような音が響いた

空気が破裂するような音
鼓膜が振動して耳が痛い


「ユウ、屈め」


ジャッカルに言われて体を出来る限り小さくして窓の外を覗いた


「ちょっと待ってよ…白石君っ」
「んー。待たれへんわ。」


青いジャージを着たくりくりお目目の菊丸君の顔には恐怖の色しか無かった
後退して白石君を宥める菊丸君は今にも泣きそうで顔を横に振った


白石君の手に握られた拳銃
これがさっきの爆音だと分かると今度は白石君が何をしようとしてるのかも不思議と分かった


「おしいなぁ。後ちょっとやったのに」


笑顔で
だけどどこか冷たい表情で白石君が引き金を引いた


乾いた音と共に菊丸君が呻き声を上げる

左手を押さえて座り込んだ菊丸君の背後にはもう逃げ場がない



『菊丸君…っ』
「ユウ!出るな」


ジャッカルが止めた
ここで二人を止めないと…

僕達はとんでもない光景を見ることになる


「んー。拳銃で使いこなすの難しいんやなぁ。狙った所に行かれへん」


肩で息をしてる菊丸君はキッと白石君を睨んだ


「ええ顔しとるな。なぁなぁ、ちょっと練習台になってくれへん?」


言い終わらない内に銃声が3発響いた
それと同時にジャッカルが僕の目を塞いでその場から逃げる為に立ち上がった


五月蝿い銃声のおかげで僕等が立てた物音にも気付かない白石君




だけど最後その場を去る時、血まみれで地面に倒れこんだ菊丸君が




「見てたなら、助けてくれても良かったにゃ……」




小さくそう呟いたから僕は罪悪感で押しつぶされそうになった






つづく


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