「ゲームスタート」

無機質な氷帝の顧問の声が響いた
感情が籠もっていない台詞によって始まったゲームは楽しいものなんかではなく

人を恐怖と不信感の淵に陥れる最悪の悪夢だった


いや、悪夢の方が幸せだったのかもしれない
夢なんかじゃない
これは覚めることの無い現実
このクリアな思考力と記憶力がなによりの証拠だ

紛れも無い現実世界をふらふら歩いていた僕は足に当たったソレを見て悲鳴を上げた


人の頭…
誰かも判断出来ない程ぐちゃぐちゃになった屍に吐き気がした

人が死んでいる
初めて死体と言うものを見て頭が真っ白になった
だけど一つだけ分かった
誰かがこの人を殺したこと…


このゲームに乗って既に殺し合いは始まっていること

震えながらも逃げるようにその場を後にすると僕は耐えられなくなって胃の中の全てのものを吐き出した


『かはっ…はっ、はぁはぁ…』


ふと吐いたものの中に一粒の種を見つけた思考が過去に飛ぶ
朝の平穏な会話だった
そう、朝まではあんなに平穏だったのだ…



―うわ!さくらんぼの種飲み込んじゃった!―
―来年ユウからは桜が咲くのぅ―
―来年はユウの下でお花見だぜぃ!―
―アホか馬鹿っ!―


確かに、
確かにそれは今日の話なのに
仁王とブン太と笑い合ったのは今朝の話なのに

今と過去の温度差に頭が痛くなった
なんで?
どうして僕等が?

バトルロワイヤルだなんて映画か小説か、はたまたアニメの世界だと思ってた
日本にそんなことして良い法律なんかないし、そんなことを一教員が企てたなんてこと問題どころの騒ぎじゃない


今参加している学校
我が立海を含め、青学、氷帝、不動峰、六角、比嘉、山吹、ルドルフ、四天宝寺
間違いなくこの学校の顧問、ならびに校長は処罰されるだろう
もしかしたら学校ごと無くなるかもしれない

学校側にも生徒にも利益を生まないこのゲーム
一体何を考えているのだろうか

人と人が殺しあうなんて
一番あってはならない
しかも他校もいるとは言え共に同じ目標で競い合ってきた好敵手を討つなんてこと…

…同じ学校の仲間を討つなんて考えたくもなかった

だけど
始まってしまった
バトルロワイヤル
初めは中学生特有の中二病ならではの遊びだろうと思っていた

サバイバルゲーム
ただの遊びで
部活の練習の一環で…


そう思っていたのに
顧問達が僕等に真顔で荷物を持たせるから
僕等中学生の顔は真っ白くなった



『はぁ…はぁ…』



先程倒れていたの屍を思い出す
青い髪
だけど所々焼けていてそれが真っ青だったなのか
はたまた最初から濃い青だったのか分からなかった


青い髪の…


次々と名前と顔が浮かんでは消えて
浮かぶたびに呼吸が苦しくなった


『ぁ…ゆき、むら……』


そうだ
僕の学校にも居たじゃないか
青髪のよく似合う…


『あ…あぁぁぁっ』



一瞬にしてさっきの屍が鮮明にフラッシュバックする
倒れていた青髪
そうだ、なんで気付かなかったんだ
青髪より判断すべき所はあった
何よりも僕等のトレードマークの黄色いジャージ
あの屍は紛れも無くそのジャージを着ていたのだ


『ゆきむらぁっ…』


目の前で
共に頑張ってきた仲間が殺されていた


なによりもテニスを愛し
絶望の淵から這い上がってきた神の子幸村



―いつも苦労をかける―
―初戦とは言え、皆動きが悪すぎるよ―



―幸村!無敗でお前の帰りを待つ!―


神の子でさえもこのゲームは避けられなかった


『ぁ、はぁっ…はぁ…はぁ、』



―ユウはテニス、好き?―
―そう、俺も好きだよ―


呼吸が速くなる
酸素しか入ってこない
苦しい
悲しい
辛い
悔しい



―絶対全国は優勝だから―



『うわぁあぁぁぁぁぁぁあっ!』


―ユウ―


空に向かって叫んだ
嫌味なくらい青空に僕の声が響いた刹那


死亡確認放送に幸村の名前が呼ばれた―






序章終わり


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