タイムスリップ
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仁王と別れた帰り道
道の真ん中に銀髪の男の子が立っていた
しかも一人
危ないと思い駆け寄り視線を合わせるように屈んで絶句した



『え……んん?』


銀髪は結んではいないものの猫ッ毛
目は仁王と同じ蒼い色
肌も白くて口元にはチャーミングなほくろ…


ちっさい仁王がそこに居た



『いや、待て。いくら仁王が好きだからといってこんな幻覚…』

「おまえさん、ここはどこじゃ?」

『はい?』


少し高めの声からは聞き覚えのある方言


こんなにも仁王中毒になってしまったのだろうか…

自分の溺れように頭を抱える



『君、名前は?』


そうだ、名前を聞けば一目瞭然
さすがにそんな偶然…


「におーまさはる」


……え?


ポカン。と俺の周りだけ静かになった
仁王にそっくりで
仁王みたいな話し方してて
仁王と同じ名前…


『におー!!?』


小さい仁王の肩を抱いて揺さぶる


いやいや、さっきまで仁王と同じだったし
仁王が小さくなるなんてありえない



『におー……ん、雅君はどこから来たの?』


「きづいたらここにおった」


たどたどしくはあるが仁王独特の話し方にこの子は仁王なんだと確信する


だけどなんで?



『雅君、お母さんは?』

「わからん」


子供には似合わない広島方面の訛り



どうしたものか…
仁王と別れてすぐに仁王のちっこいのと会うとは…



『雅君さ…お家帰れないよね…?』


もし
もしね?

俺のこのファンタジーな思考が本当だったらさ

雅君が過去から来た、だなんて変な話が本当だったらさ




「おまえさん、なまえは?」

『ユウ。九条ユウだよ』



俺はきっと雅君を守らなきゃいけない気がするんだ…





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そう言って誰も居ない家に雅君を招待する
漫画みたいに家に親が居ない俺
別に特別な環境とかじゃない
立海が少し遠くの方にあっただけの話


アパートにしては少し広い部屋のリビングに雅君を座らせるとマグカップにココアを入れた



『あ、甘いの駄目だったっけ…?』


雅君は仁王
だから仁王の苦手なのは雅君も苦手な訳で…



「ん、だいじょうぶ」


小さな手に落ちないようにしっかりとマグカップを乗せてごくごく飲む雅君を見る


やっばい、すごい可愛い
仁王をぎゅーっとした感じ



でも仁王みたいに尻尾がない
少し短いが襟足はやっぱり長い
小さい頃からこんな髪色、髪型をしてたのか!と突っ込みたくなる


仁王の銀髪は人工的なものらしいけれど
いつから染めているのだろう?


『雅君何歳?』

「5」


小さな手のひらを目一杯広げて作った5に胸がキュンとする
可愛い、食べたいくらいに可愛い!



とりあえず連れてきたのは良いもののこれからどうして良いのか分からない
時計を見ればもう6時でご飯の支度もしなければいけない



『買い物行こっか』


冷蔵庫の中には大した食材も無く
きっと雅君のことだ、偏食なのも目に見えて居たので俺は再びコートに腕を通して雅君の首に長いマフラーを巻いた

埋もれそうなその顔がまた可愛い

駄目だ、この数分間で俺は完璧にこの雅君に心を奪われている


―ごめん、仁王!


内心仁王に謝りながらも雅君の手を引いて家を出る



「ごはんなに?」

『んー?何食べたい?』

「………オムライス…」


むはっ…
照れたようにそっぽ向いて言った雅君に心を撃ち抜かれる



『じゃあオムライスにしよっか』

「ほんまぁ?」


首を傾げて聞く雅君
ほんと、殺す気か!ってくらいに可愛い

あぁ、このままもう俺のモンにしたい
欲しい、可愛過ぎる

なんて危ない思考を巡らせながらもスーパーの道を急ぐ


『雅君ってどこに住んでるの?』


仁王に聞いても教えてくれない質問
雅君なら答えてくれるだろう


「内緒ナリ」


しーっと指を立てて答えた雅君に完全ノックダウン
繋いでいた手を離しぎゅーっと抱きしめた


「あったかい…」


雅君がそう言ったのでそのままで歩く


『雅君の髪こしょぐったい』


時折顔に触れる襟足に気付き雅君を一度降ろしポケットの中を探す



『あった!』


ポッケから出てきた赤いゴムで雅君の襟足を軽くまとめると仁王の出来上がり
満足そうにくるくる回る雅君に俺の頬も緩みっぱなしだった



「ユウ…?」


低い聞きなれた声
なんだか暫く聞いて無かった気がして一瞬反応が遅れる



『あ、におー。』


そこに立っていたのは制服と違ってラフな格好の仁王が立っていた


「ん?誰じゃ…?」


仁王の存在に気付いて俺の後ろに隠れるように足に抱きついた雅君を見て仁王が聞く
なんかややこしい…



『雅君だよ。』


雅君と同じ大きさになるようにしゃがんで下から仁王を見る



「は…?」


仁王の驚いた顔
これはびっくり、詐欺師でも驚くらしい



『雅君、これが雅君をちょーっと悪にして詐欺って言う変な技を身に着けちゃったにおー君です』


「におー君…?」



依然警戒を解かないのは仁王も雅君も一緒


「ユウ。いこ」


不機嫌気味に雅君が俺の腕を引っ張る

すると負けじと仁王が反対側に腕を引っ張った


「説明しんしゃい。なんじゃその子供」

『ざっくり言うと仁王の子供の頃の子。』


これしか説明しようがないのだ
どうしてここに居るのか
はたまたどうして過去から未来へ来れたのか


5歳児の雅君に説明できる訳も無い


『雅君おいで』


腕を広げると疑いも無く俺の胸に飛び込んで首をぎゅぅっと抱きしめる雅君


ひょいっと持ち上げて仁王に対面させる



「ほんま…俺そっくりじゃ」

『だからにおーなんだってば。』


驚くことは無い
仁王の詐欺が過去や未来すら行ったり来たり出来ることは今まで目に余るほど見てきた



『今から雅君のご飯作るためにスーパー行くの。におーも行く?』


そう言えば買い物の用事を忘れていた俺は立ち尽くす仁王に聞く



「うん。」


コクンと頷いた仁王はやっぱり可愛い
こう言う無意識な可愛さは今も昔も変わらないようだ



腕の中には雅君
右手には仁王と変な構造で俺達は歩く


スーパーに付けば好きなお菓子買って良いよ。と言うのに俺の側を離れない雅君
負けじと離れない仁王に挟まれながら籠に食材を入れていく



「オムライスか。」

『雅君リクエストなもんで』



お菓子コーナーへ向かうと雅君も仁王も同じお菓子を持ってくるもんだからなんか可愛くって笑ってしまった


もしかしたら仁王と俺に子供が出来たらこんなんだったのかな?なんて思いながら



俺が払うって言うのに仁王は

「小さい俺でもユウに養ってもらうのは嫌じゃ」

と大きい仁王は言い張るので仕方なく仁王に払ってもらい帰り道



ようやく二人も打ち解けてきたようで…



「ハル、あんまユウに引っ付くんじゃなか」
「におーだってユウの手離しんしゃい」


仁王はさすがに自分の名前を呼ぶのは嫌らしいので雅治下の文字、ハルと呼んだ


二人のやり取りが可愛すぎて笑える
俺今、すっごい幸せそうな顔してる



『におーさ、今日泊まってく?』


正直俺一人で雅君を面倒見るのは怖い

誰か一人居て欲しいし、それが仁王ならもっと良い

なんせ雅君をよく知っているのは他でもない仁王なんだから



「ハルが居らんかったら良かったのにのぅ…」


ニヤっと笑った仁王に寒気がする



『うわ…雅君、あんな笑い方覚えちゃ駄目だよ?』


雅君にそう言うと元気なお返事
素直でよろしい

このまま育ってくれたらどんなに良いことか…
心からそう思った





家に着いて
引っ付きまわる二人を引き剥がしてお風呂に放り込んだ後
雅君リクエストのオムライスを作る

ふわふわ卵にするところがポイントだ

生クリームを加えてあわ立てて
白身と黄身は完全に混ざりきるまで手を休めない

あの二人の笑顔が見たいと思うと自然と料理にも力が入った



お皿に盛り付けて
後は出てくる二人を待つだけ



「ユウー!!」

「あ、ハル待ちんしゃい!」


まだ髪の毛を塗らした雅君が俺の腕の中に飛び込んでくる


「におーが意地悪した」


タオルで髪を拭いてやると気持ち良さそうに目を瞑る雅君
途中仁王が「俺も」と擦り寄って来たがそれはさくっと無視した



『におーも5歳児相手に本気になるなよー』


そういうと仁王は頬を膨らませた
そんな顔しても無駄
今は雅君が有利


「あ、オムライス…」


目を輝かせた雅君も前で自慢げにオムライスの卵を割る
もったいなさそうにしてた雅君だったけど中からとろっとろのチーズが出てきた瞬間に感嘆の声を上げた



「ユウいいお嫁さんになるぜよ」

『誰が貰うんだよ、こんな男』


さらっと「俺じゃ」と言った仁王
普段ならここで甘い空気になるが雅君の手前なのでまたもや無視をした
少し仁王が可哀想
食べ終わったら仁王の方も相手をしてやるか



小さい体にどんどん吸収されていくオムライス
仁王も優しい笑顔を浮かべて雅君にオムライスを分けていた


なんだか幸せ


「あ、そだユウ!字おしえてほしいナリ」


食事も中盤になって雅君が言った


『字?』

「そ、よーちえんで習ってるん」


仁王が何も言わず雅君と俺の食器を片付けてくれたのですぐに雅君が紙とペンを持って来た



『そうだなぁ…』

「ぴよって覚えんしゃい」


横からひょいっと仁王が雅君に要らんことを言う


「ぴよ?」

「人から質問された時に誤魔化すときに使うナリ」


そう言って雅君を後ろから包み小さな左手に手を添えて「ぴよ」っと紙に書いた


『におー…それ幼稚園で使えないよ…』

「ぴよっ」


後は―

と言ってプリやプピーナを伝授して行く
どうやら自分なりに使い分けているらしい
全く持って分からないが…



『雅君?あのね、魔法の言葉教えてあげる』

「まほー?」

『これを言えば、皆笑顔になるんだよ』



そう言って雅君の左手を包んだ


『あ…におー、俺右利きだった…』


溜息をついた仁王を少し笑った後雅君の左手を握る



耳元で書いて欲しい言葉を伝えると仁王が書き始めた



「あり…がとう?」

『そ、これが言えれば雅君はきっと良い子になれるよ』



くしゃっと雅君の頭を撫でる


親が子を思う気持ちはこんなんなんだろう



なんか、なんとも言えない淡い気持ち


暫くそうして笑っていると仁王が俺を呼んだ


『ん…?』



顔を上げた俺に仁王からのキス
逃げようと顔を背けるが後頭部を押さえられて動けなくなった



『にお…っ…』


ちゅっと離れた唇


きょとんとする雅君に血の気が引いた



『っわ!馬鹿!におーの馬鹿!』


雅君にごめんね?と顔を傾けると雅君は何も言わずに顔を近づけた


―ちゅ…



仁王と違って触れるだけのキスだったけれど
全身が熱くなる



『はわわわ…雅君、なんてこと…』


これで雅君がキス魔なんかになったらどうしよう…


「これやったらユウ、すっごいかわいい 顔しちょった。」


サラっと言えちゃう辺りは小さい頃から変わらないんだろう


『雅君っ。』


焦ってわたわたしていると仁王がひょいっと雅君を膝に乗っけた


「ユウ以外にしたらアカンぜよ?」
「もちろんっ」


大きい仁王と小さい仁王は同じ顔して笑う


『あ、そだ。皆で写真撮ろーっ』

そういってデジカメで3人並んで写真を撮った
最初仁王は写真を嫌がっていたけど俺が「どうしても」って言ったら許してくれた


すっごい幸せ
何回も言うけど顔が綻んだ






『もう遅いから寝よっか』


ふかふかのベットに雅君を転がして
暫く構って無かった仁王の手を引っ張った


『ほら、おっきい仁王おいでー?』
「……雅君って呼んで」
『むーりっ。雅君は雅君だもん』
「ほな、まー君って呼んで?」

可愛らしさは小さい頃から変わらないらしい
しかも妙に色気を放つまー君(笑う所)は首を傾げた


つくづく仁王雅治と言う男は罪な男だ



『ほら、まー君おいで?一緒に寝よ?』
「……どうなっても知らんナリ」
『アホ。』


ペシっと仁王を叩いて雅君と同じようにベットへ転がす



落ちるかもしれないから―と雅君を俺と仁王の間に寝かす
そう大きくはないが3人納まったベット
3人集まればすごく暖かかった


「おやすみ、ユウ、ハル」
「おはすみんしゃい」
『おやすみ』


おやすみって言ってから暫く雅君の声が響いてたけど
スーっと言う心地言い呼吸が聞こえたから俺も布団へもぐった―





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--------------------



『ん…?』


少し寒いと思って覚醒しきれない頭で目を開けた


俺の背中に回った仁王の腕
まるで抱き枕みたいだ…


……ん?


『え!?ええ!?』


「どうした…」


起き上がって悲鳴を上げた俺にさすがの仁王も目を擦って起きた


『雅君が居ないっ!』



俺と仁王の間に居たはずの雅君が居ない


『におっ。いつ俺を抱き枕したっ?』


若干泣きかけの俺に仁王が落ち着けと頭を撫でる



「帰ったんじゃろ、……ほら。」



仁王が俺を抱きしめながらテーブルを指差す



真っ白い紙
慣れない文字で


"ありがとう"


そして小さく


"ぷりっ"



『まさ…くんっ…』


ボロボロ涙が毀れた


初めて雅君に出会って
人を心から愛しいと思って
守りたいと思えて
ずっと仁王と一緒に居たいって思えた



泣き続ける俺を抱きしめながら仁王は続けた



「俺、覚えちょった。」
『…え?』
「小さい頃、事故にあって、
3日間だけやったけどやばいってなった時があった」


仁王の言ってる意味が分からなくて仁王を見つめる


「事故して、気付いたら見たことない所に居って…
不安になっとった俺をある一人の男の子が救ってくれた」


『それって…』


仁王は優しい顔して頷いた


「その子はユウって言うた。
その懐っこい笑顔に俺は安心した
この赤いゴムも貰った
初めて…"ありがとう"って言葉を教えてもらった」


涙が止まらない

小さい雅君が
大きい仁王となって全てを明かす


「目が覚めた時、幼いながらに愕然としたの覚えちょる。
だから大きくなって、絶対ユウを見つけるって、」


『におー…』


「ここに来るまで長かったけど、やっと見つけた。」


微笑んだ仁王の顔
よく見たいのに涙はそれを邪魔する



「詐欺とか色々覚えてしまった俺やけど
これからもよろしくしてくんしゃい」

『はいっ!』



仁王?

俺と仁王は必然だったんだね
仁王が偶然事故をして
奇跡的にこっちの世界へ来て
そして俺と出会った


仁王と出会えて
仁王が俺を探してくれて


すごく嬉しかった

ねぇ仁王?



『大好きだよ。』



大好きだよ


いつも


いつまでも―…




おわり
2011.12.17



     







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