千歳とトトロ
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「純粋なユウならトトロに会えると思うたい!」



珍しく自分から部室に出向いたかと思えばとんでもないことを言い出した

―何言ってんだ、お前

と言う思いは私以外にも部室に居る全員が思ったらしく
白石は困った顔して笑い、謙也は「え、ちょ。」と控えめに否定をし
光に至っては冷たい目で私と千歳を見た(いや、私関係無いよね?)


ただ一人、金ちゃんだけは素直で
「ワイもトトロ会いたいー!」と叫んで千歳に「金ちゃんも会えるったい」と言っていた。アホかコイツ等


「先輩、そろそろあの人に現実教えたらなホンマに頭逝きよりますよ」


財前の冷たくも最もなアドバイスを貰い私も少々千歳を甘やかしすぎたかな。と思った


今までだって「トトロはアニメキャラだよー?」と伝えてきたつもりだ
夢を壊さないように、やんわりと。
その度に千歳は「そんなこつなか。絶対会えるっちゃ」と訳の分からない自信に満ちた表情で返した


それもそろそろこの男に現実を教える時が来たらしい
ふと、数年も前に流行ったある都市伝説を思い出す


『千歳、トトロってさ。死神なんだよ?』

隣で財前が「ネタ古っ」とか言ったのをしばき倒す


「え?」


笑顔の千歳が固まって金ちゃんも首を傾げた


『トトロってね。どっかの国の言葉で"死神"って意味なんだって。トトロは死期が近い人間にしか見えなくて、猫バスはあの世へ向かう乗り物。だから……』
「そげなん信じなか!!」


私の声を遮った千歳はいつも金ちゃんがぐずる時みたいに目をぎゅっと瞑って叫んだ



「やったら見に行くばい」
『ほへ?』


私の右手を掴んだ千歳はずんずんと扉へ歩いて行く


『ちょ、だから!し、死期!殺す気か!』


無言の千歳に普段うるさいメンバーも黙って道を開けるほかない
ばんっと大きな音を立てて扉を開くと、室内の涼しい環境とは違ったむーんと蒸し暑い空気に体が包まれた



暑さも気にせず歩いて行く千歳
コンパスの大きい足で問答無用に歩かれて、引っ張られる私も汗が出て来て嫌になる



『ち、千歳……っ、トトロ、死神って言ったの謝るから…っ』


ずんずんと裏山への道を進んで行く千歳にかろうじてそう伝えるとようやく足が止まった


「ここまで来れば安心やね」



先ほどとは違いいつもの柔らかく優しい千歳の声が耳に響く


『千歳、怒ってないの…?』
「トトロが死神ばってんこつは知っとったっちゃ。やけどこうでもせんとユウと二人きりになれんたい」

『ちと…』


ふんわり微笑んだ千歳が妙にこの山とマッチしててほんわりと心が暖かくなる



『だけど良い所だねぇ』
「やろ?俺のお気に入りの場所たい」


深々と森の空気を吸い込めば新鮮な空気の味がした
入り組んだ一カ所のスペースに慣れた様子で入ると千歳はぼふんとその上に寝転んだ


「ユウも来んね」
『お邪魔します』



隣に寝転がると千歳が「ちゃう」と小さく否定した
なにが?と問うが先に千歳の腕が伸びて来て腕枕をする形で千歳の肩に頭を乗せられた



木漏れ日が気持ち良くって眠気を誘う
風は通るし心地がいい
呼吸をすると共に少し動く千歳を感じながらもふと、思った



『私、トトロに会えるかも』
「ほんなこつ!?」



顔を上げれば目をキラキラさせた千歳と目が合う



『て言うか……会ってる、かな?』




この草木に囲まれたスペース
どうやって入っていいのか普通の人なら分からない場所
千歳と私だけで、千歳の呼吸を感じて、眠たくなって





『千歳、トトロみたいだもん』



ほら、トトロみたいに大きなあくびをして
眠そうに私の言葉を聞く




『貴方名前なんて言うの?』
「ふふ。ユウもなかなかロマンチストやね」

『ちょっと、答えてよ』


「……トトロたい」



なんでトトロが熊本訛りなのよ。と文句を言うと千歳トトロは熊本出身たい。と意味の分からない返答をされた



『じゃあ千歳の自転車が猫バス?』
「そーなるね」


クスクスと笑うと「なんね?」と頭を撫でられた



『今日は猫バスに乗って帰ろうかな?』

「行き先は?」

『ユウの家』



顔を擦り寄せてぴったりと千歳にくっ付いた
暖かい日差しが本格的に眠気を誘って来てあくびを一つ

「暫く寝てよかよ」

起きたら猫バスに乗せてあげるけん。と言う千歳の言葉に甘えて目を閉じた





「やったらユウは俺の永遠のメイちゃんやね」





寝る間際千歳がそんなこと言うもんだから「なにそれ」と小さく笑ってそのまま眠りに入ってしまった







おわり



     







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