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「自分まず、色気作ろうな?」
『え、ちょ…っ!』




仮にも女子の腹部に手を入れスカートを短くする白石君



「せっかくええ足してるんやからもっと出さな」
『段々白石君が変態に見えてきたよ…』
「協力せぇへんで」
『すいませんでした…』


光を取り戻すべく始まった作戦


「なぁ、財前の好きなタイプ知ってるか?」
『え…?んー…趣味あう子とか?』
「なんや自分、財前と幼馴染みなのに知らんのか」


そう言えば光の好きなタイプなんて聞いた事ないし
聞いた所で教えてなんてくれないだろう


「家庭的な女の子がタイプらしいで」
『か、家庭的…』


家庭的と言えば…
料理が出来て
掃除も出来て
女子力高くて……



「自分、何作れるん?」
『おむらいすおんりー』


盛大に溜め息をついた白石君
なんですか、オムライス駄目ですか?


「せやなぁ…財前が好きな食べ物くらい知っとるやろ?」
『ぜんざい?』
「おん、ほなぜんざい作る練習しよか」
『え、どうやって…』
「うちの部活にはな、誰よりも女子力高いのが居んねん」






















「はい、ここで白玉作るから粉溶いてな?」



私の家のキッチンが徐々に汚れて行く
私の手によって……



真っ白と化したシンクは白玉粉でまみれて行く


『小春ちゃん、すごいね…』
「ぜんざいくらい簡単よ☆ほら、あと少し」


外見とは反対に女子力の塊な小春ちゃん
小春ちゃんの相方の一氏君と言えば、デート中を邪魔された私への警戒心剥き出してソファに座っている

横に居る白石君が居なかったら確実に殺されていただろう

本当、ごめん。一氏君…



「ユウちゃんは苦手なことが頑張れちゃうくらい財前君のことが好きなんやね」
『ばふっ』



ストレートな小春ちゃんの言葉を受け止めきれず思わず変な声を上げてしまう私



『いや、好きって言うか……一回振られたくらいで諦めるの…嫌で…』



しゃこしゃことかき混ぜる音が響く
後ろで一氏君が聞き耳立ててるのが分かる
それが小春ちゃんにも分かったのかわざと大きな声で小春ちゃんは話した



「ユウちゃん偉い!誰かさんと違って一途やわー!ホンマね?ちょっとキツいこと言うたからってすぐ凹むヘタレな人と違ってユウちゃんは強いわぁ」



その誰かさんが誰なのか聞くまではないのだけど、後ろに居る誰かさんは不機嫌そうな音を立ててソファーに座り直した



「応援してるから、頑張ってね」


ああ、なんだか小春ちゃんがすごく可愛く見えてきた…


『うん』



ひしーとキッチンで抱き合っていると、さすがの一氏君も堪忍袋の緒が切れたのか、私と小春ちゃんの間に割って入って、小春ちゃんを引きずるようにして帰ってしまった



残された私と白石君は白玉ぜんざいを囲んで食卓に座った



『…見た目は…』
「悪ないな。後は味やで…」



ドキドキしながらスプーンを降下させる
白いつやつやの白玉にスプーンの先がちょん。と付いた瞬間、玄関から誰かが入って来る音がした



「ユウー。今日オカン等居らんから一緒に飯食え…って……」



もの凄い鋭い眼差しで白玉ぜんざいを囲んでいた私達は光の登場に慌てふためいてしまった



「お、おぉー!財前!奇遇やな!こんな所で!」
「奇遇って、ユウの家やないですか」


焦った白石君は意味の分からない言葉を吐く


「まぁ、ゆっくりぜんざいでも食べぇや」
『ちょ白石君暴走しすぎ…!』


あくまで今日のは試作品な訳であって
光に食べさせるのは自分一人で作った完璧な白玉ぜんざいなのに…



「これ、先輩等が作ったんすか?」
「あ、あぁ。ユウと、なぁ?」
『へ?あ、うん…』



厳密には小春ちゃんが―なんだけどね


光がスプーンを握って白玉を一つ掬う
心臓がバクバク言ってる
料理を食べてもらうのにこんな怖くなったの初めてだ…



「あっま、甘過ぎっすわ。なんこれ」


一つ食べて顔を顰めた光


ざっくりと心が傷付いた


ぎゃんぎゃん言いながらあんこを掬ってまた甘いと言う光
上手く言葉が出なくなって
傷付いたのが怒りに変わって
白石君が咎めようとするよりも早く光からぜんざいを奪ってシンクにぶん投げた




ガシャン!と耳を付くような破壊音が響く
シンクの中では飛び散った皿のガラスと、さっきまで一生懸命作ってたぜんざいが混ざりあってなんとも言えない状況になっていた




『別に、光の為に作ったんじゃないし…』

「ユウちゃん!」



光の為に頑張ったけど
どうしても光の望み通りには行かなくって

白石君の制御なんて耳に入らないくらいに狂ったように私は叫んだ



『勝手に食べないでよ……勝手に人ん家に入って来ないでよっ!』




頑張ったのに
小春ちゃんに「頑張ってね」って言われたのに
何もかもぱぁだよ…



「財前、あんな?これは…」
「ほな俺の好物なんか他の男と食ってんなや」

『は…?』


光の目がいつもの目からもっと冷たい目に変わる



「自分、誰も居らん家ん中に男上がらせてアホやろ。そんで幼馴染みの好きな食い物一緒に食べるってホンマきもいわ。」

『アンタが白玉ぜんざい好きとか私知らんわ!』

「は?こんだけ一緒に居って知らんとかアホやろ。」

『光の彼女でもあるまいし知る訳ないでしょ!所詮幼馴染みなんてそんなもんなの!』


自分で言って自分で傷付いた
幼馴染みの縛りは大きくて
一番知ってるつもりでも
実はまだ知らないことが沢山あって

その知らない所を彼女になる人は徐々に知って行くんだと思ったら嫉妬で狂い死にそうだった




「俺等はそんな薄っぺらい幼馴染みやったんやな…」



光が傷付いた顔をして言うから急に言葉が出なくなった




気を遣ってか白石君は「行くわ」と一言残して出て行ってしまった




『……もういいよ。ごめん。ご飯、一人で食べるから光は家戻って』



打ちまけられたぜんざいを片付ける為に水を流す
ぜんざいの中に指を入れると水の勢いで動き回ったガラスの破片で指を切った


痛みなんか忘れてぼーっとしていると血が出て来て止まらなくなる

それもぼーっと見ていると光が飛んで来て怪我した腕を掴んだ



「お前ホンマ阿呆やな!アホ通り越して馬鹿や」



だらだらと流れる血を流水で洗い流す



『………、……でよ』
「は?」

『アホアホ言わんでよっ!光には関係ないじゃん!』



拒絶するように掴まれた腕を振りほどくと血と水が飛沫となって舞う
涙が止まらなくなってせっかく冷静になりかけていた思考が再び嫌な方向へ走り出す




『だから、家帰ってって言ったのに……。光に、一番言っちゃいけない言葉言いそうだから…』



涙は酷くなって嗚咽が出て来る
口を抑えてキッチンに背を預けるとそのままズルズルと座り込んでしまった




「言ってみぃや」


『え…?』


諭すような、そんな声で光は呟いた


「その言葉。どうせ俺にしか受け止められんのやから言えや」

『ひかる…』

「とっとと俺んこと好きやって言え言うてんねん!」



近場にあった椅子を蹴り倒した光は強いまなざしで私を見る


「ほら、はよ」
『でも彼女……』
「は?」



今まで怖い顔して私に迫っていた光は素っ頓狂な声を上げた


『後輩の…子。最近一緒に登校してる子』
「あ?……あぁ…あれか……」


少し上を見て考えた様子の光は、私が言っている人物が誰かと分かると至極嫌そうな顔をした


「なんでアイツが出てくんねん」
『……あの子に、告白するから邪魔しないで、って言われた』


あの子から言われた経緯、全てを話すと光の不機嫌さはいっそう濃くなった


「ほな俺が告白断っとったんは全部ユウのせいになってたっちゅーことか」
『うん。後輩の間ではそれがベターらしくて…』
「しょーもな!んでお前は?言い返したんか?」


腹立しそうに話す光に問い詰められ、私は首を横に振る
そんな私を見て光は信じられない様子で声を上げた


「そんくらい言い返せアホ」
『だからアホアホ言わないで…って…っ』
「急に弱なんな、ほら。タオル」
『それ食器拭くやつーっ』



問答無用でごしごしと拭われる
ぶちまけたぜんざいが飛び火していたらしくタオルからぜんざいの香りがした



『本当はもっと美味しいの食べて欲しかったの…』
「おん」
『これ、小春ちゃんと一緒に作ったやつだから、一人で頑張って作ったやつ食べて欲しかったの』
「せやな」



光が頭を撫でてくれるから落ち着いて言葉を探せる




「ほなもっかい作って?」




優しい柔らかい声で光が微笑むから、びっくりして暫く光の顔を凝視してしまった
「なんやねん」といつもの表情に戻った光に『なんでもない』と返すと、右腕を引っ張られ立ち上がった



『材料無いから買いに行こうか!』
「ついでに夕飯も作れや。腹減った」
『オムライスでいい?』
「お前と夕飯になるといっつもそれやな…」



涙を拭いて光の手を引く




「あ…せや」


『ん?』



思い出したように立ち止まった光は少し恥ずかしそうに右頬を掻いて




「ぜんざい、めっちゃ美味かったで」





『ありがとう』












.











「…もしもし、一氏先輩?」
"お前もうユウん家行け!めんどいわ!"
「は?どう言う……」
"小春とのあまーーーい時間邪魔されて腹立ってん!そろそろくっつけ!うっとおしい"
「なんやよく分からんけど行けばええんですね」
"はよ行け!ドアホ!"





「なんなん…この人……」












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