「し」がつく異名にご用心
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「どういうことですか?ユウ君」


僕の発言に柳生は心底不思議そうな顔をした



『だからね?僕が思うにさ、仁王との恋って悲しくて辛くて、
だけど好きだ―って言うやつだと思うのさ』



窓から下を見ると最近新しく出来た彼女と仲良さげに喋る銀髪の姿


僕と仁王は実は付き合ってた
過去形がふさわしいのか分からないけど自然消滅、みたいな



僕の発言にまだ分からないのか柳生が詰め寄る


「悲しい、恋愛…?」

『うん、振り向いてもらえなくて良いんだ。』



おかしいのかな―?
そう言うと柳生は悲しそうに笑った


僕の勝手なイメージ
仁王は誰にも本心を見せない
僕と付き合ったことだって単なる気まぐれ
女の子に飽きたから男の僕で良い、って所

だけど僕は不思議とそれで良いんだ

なんて言うのかな―…


『僕って…マゾ…?』


確かに女の子と仲良くしてる仁王を見て
傷付くことだって多い
この胸の痛みだって
泣きそうになる今だって


『案外好きなのかも…』


その発言に柳生は言った


「仁王君に好きと言わないのですか?」

どこにも行かないで―。と


『言わない、かな…?』



自分の気持ちに素直になるのって
かなり怖くて

『なんか負けてるみたいじゃん』


余裕綽々の仁王に
自分から好きだ。なんて
死んでも言えない
そんなん言った暁には顔がお風呂上がり並みに赤くなる
いや、それ以上。


『好きなんだけどね、におーのこと』


柳生には言えるのにな―と言うと柳生は眼鏡を直して俯き気味に笑った


「ユウ帰るぜよ」



不意に仁王の声が聞こえて顔を上げると扉に寄り掛かる仁王が居た


『あ、うん。』


自分の机から荷物を取ると柳生はまだ居残るからと言って自分のクラスに戻ってしまった


『ん。いーよー。ってあれ?』


マフラーも巻いて帰る準備万端だったのにさっきまでそこに居た仁王は居なかった

『…におー?』


気になって廊下に出たが仁王の姿は無し

先に下に降りたのかと思い階段を降りようとすると死角になっていた壁から仁王が出てきた


『なにしてんのさ』

「気まぐれじゃ」


仁王の成分の98%は気まぐれで出来ている
後はおまけみたいなもんだ


『寒いねぇ…』


冬本番となってきた12月の空に仁王の銀髪がよく映える


「そうじゃの」

白い息を溢しながら仁王が空を仰ぐ

それが様になっていてかっこいい

なんて口が裂けても言えないけれど


『もーすぐ誕生日だね』

すぐそこに迫った仁王の誕生日

僕がその話題を出すと仁王は少し言葉を濁した


「あー、その日じゃが…」

ペテン師なんだからもっとうまくやれよ。

そう突っ込みたくなる


どうせ新しい彼女とデートでしょ?

つか彼女何人目だっけ?


『ん、僕も用事入ったから無理なんだよね』


無駄に口下手になった仁王をフォローするかのような僕の強気の発言


その言葉に仁王は少し寂しそうに笑った


『………』
「………」


僕は仁王のなんなんだろう?


友達、と言われれば一概にそうとは言えない気がする

ちゅーだってしたことあるしそれ以上とは行かないまでもスキンシップは多めだ

じゃあ恋人かって聞かれたら自信持って頷くことは出来ない


事実、仁王には何人もの彼女が居る訳で
なんせ飽き性の仁王君ですから
本当の仁王君を僕は知らなかったりする


『なんかにおーって分かんない』
「なんじゃいきなり」



僕の呟きは仁王にしてはえらく速いスピードで返された
いきなりじゃ、ないんだけどな…


そう思いながら早く家に着かないか。なんて考えていた



『分かんないから分かんないの。』


ふらふらしてるし
結局誰が好きかなんか分かんないし
って言うかなんで僕に告白してきたのかも謎だし


「ユウには一番素を見せてきたと思ったんじゃがのぅ」

伏し目がちに呟いた仁王はそう言って笑った



『ん、じゃあね』


家が見えてきて急速に僕の足が速まる


今年の仁王の誕生日は日曜日
だから金曜日である今日言わなければならない



『たんじょーびおめでと、早いけどさ』


そう言って仁王に黄色いゴムをプレゼントした
プレゼントと言っては小さなものだけど
仁王が分かんなくなった僕に仁王の欲しい物なんて分からなかった


「プリ。さんきゅー」


お礼を言ってまた歩いていく仁王
本当、仁王って誰のものなんだろうね?

いや、ものなんかじゃないかもしれないんだけどさ


そんなこと考えながら仁王の髪色に良く似た冷たい雪がいつの間にかうっすらと積もっていることに今、気付いた―








◇◇◇◇





そして日曜日
暇すぎる僕に以外にも連絡してきたのは…



「お待たせしてすみません、ユウ君」


柳生だった。


『やぎゅーが連絡してくるなんて珍しいね』


にへらっと笑って言うと柳生も紳士スマイルをくれた
どうやら欲しい本を一緒に探して欲しいとのこと
久しぶりの部活が無い日はこうして休日を満喫してるんだとか



『んじゃ、行こっか』


本屋に向かうための道を並んで歩く
紳士の柳生は仁王と違って話を途切らせないように色んな話をしてくれた



『へー、そうなんだぁ』
「はい、今でもこのように―……」


不意に柳生の声が回りの喧騒に溶けていく
視線は僕を通りすぎ眼鏡の奥の目が少し動いた


『やぎゅー?どったの?』


僕も柳生と同じように振り返えろうとした


「ユウ君、こっちに行きましょう」

『ほえ!?いやいや、本屋こっちっしょ』


紳士らしからぬ力で僕の腕を引っ張って真反対の方へ進もうとする柳生


「ですからそっちは駄目なんです」

『何が駄目なのさ、別に鬼が居るとかそういう訳じゃ…』




言い掛けて
見慣れた銀髪が目に入った瞬間
柳生が気を使ってくれたことに気付いた


目立つ銀髪はゆらゆらと尻尾を揺らして
可愛い女の子を隣に
僕の見たことないような笑顔
あんなに優しく笑った仁王、見たことない



『ごめっ…柳生…』



思いのほかこれは効いたらしい
心臓が握りつぶされるとか可愛いもんじゃなくて
一気に八つ裂きにされたみたいな
喉の辺りまで苦しくなってくる


「行きましょう」


何も言わず柳生が手を引いて近くにあったお洒落なカフェに入った



慣れた様子でコーヒーとココアを頼むともう一度僕に向かい合った

「大丈夫ですか?」


わざわざ人目のつかない席を選んでくれるのが紳士らしい
その優しさにまた涙が流れた



『分かっては…いるんだけどね、』


仁王には何人も彼女が居る
んで今日だって彼女とデート


全部全部知ってるけど…



『頭と心と体が全部バラバラになったみたい…』


頭では理解してる
だけど心は苦しい
体は悲鳴を上げる



『好きじゃないなら、最初から好きなんて言うなっ…』


仁王に言えない言葉
柳生になら言えるのにね



友達か
恋人か
分からない関係


それでも僕は幸せだったんだと思う
そうじゃなきゃ友達でも恋人でも無くなって
赤の他人になって
全く関わらなくなるのが怖かったんだ



「仁王君と、別れるのですか?」

『……うん、もー、辛いや…』



仁王との悲しい恋が好きだなんて嘘
振り向いてもらえなくて良いなんて大嘘




『やぎゅー、あのね…』






『仁王のこと、大好きだったよ―』


柳生になら言えるのにね


俯いたら柳生が音を立てて立ち上がった
何事かと顔を上げるといつの間にか柳生に包まれてた



「最初からそう言いんしゃい」


紳士から
詐欺師の声


首元に巻かれた腕は強い力で解けそうにも無かった



『は…、いつから…』

「最初からじゃ」


僕を抱えたまま紳士から詐欺師へ変わる



『最初って…』

「金曜日の放課後」


……え?
ん?


『金曜日からずっと柳生だったの?』

「馬鹿言いなさんな、帰り道は本物ナリ」



今まで苦しかったのとか
腹立ってたのとか
忘れるくらいに混乱する頭


「金曜日、お前さんと話しとった柳生は俺。
女の子と仲良さげに話しとった俺は柳生。」



…と、言うことは



『ぜ、全部聞いてた…』


僕が仁王との悲しい恋が好きだって言ったのも
案外マゾかも、なんて爆弾発言したのも


全部全部柳生にじゃなくて…



「プリッ」



完璧に仁王の姿になった仁王の胸にヘッドロックする
だけど仁王の胸板の方が如何せん丈夫で僕の頭の方が痛打する



「おまんにそんな趣味があったとはのぅ…」


ニヒルな笑いを浮かべて楽しげに話す仁王



『なっ!だって仁王にはいっぱい女の子居るし
そう思ってないと怖かったし…
って言うかだな!人騙すとかさいてー。
詐欺はコート上だけにしろよ』


段々口が悪くなって行く僕に構わず笑顔を向ける仁王


「ユウは勘違いしてるなり。」

『はぁ?』


仁王と柳生入れ替え事件が自分の頭の中でようやく整理がついたので
怒りが後を追うように迫り来る



「女の子なんて居らん。」
『居ったでしょ!』
「どこにじゃ?」
『え、いや…どこにって言われましても…』



金曜日
話してた女の子は―
いや、あれは柳生と話してたんだし…

さっきの子だってあれ?あれれ?



『くっそ、詐欺師』


睨むとクククと笑った仁王が憎い



『いつから騙そうって?』


仁王の拘束を解いて椅子に座りなおす
仁王も何も言わずに再び向かいの席に座ると楽しげに昔話をし始めた



「むかーしむかし、あるところに…」


仁王君と言う銀髪でかっこいい男の子が居りました


『黙れオイ』

「まぁ最後まで聞きんしゃい」


仁王君が愛するは、他でもないユウ君ただ一人
しかし仁王君は不安でした
なかなか本心を見せないユウ君
本当に好きなのか―と。

元々無理矢理付き合ったようなものですし
なんせユウ君は仁王君に「好き」と言ってくれませんでした。

そんな不毛な恋愛に相談に乗ってくれたのは
柳生君と言う紳士な男の子
仁王君の悩みに柳生君は時間を惜しまず聞いてくれたのです

その時でした!


「仁王君、ユウ君のことが好きなの?」


教室に入ってきたのは可愛らしい女の子



『っむ、やっぱ可愛いって思ってんじゃん』

「はぁ…言うたじゃろ?最後まで聞きんしゃいって。」



仁王君と柳生君は柄にも無く焦りました
そうです、恋愛と言えども男同士
知られて噂を流されようものなら仁王君とユウ君の恋は終わってしまうのです

仁王君ピーンチ!!


『におー。楽しそうだね』

「黙ってくれればもっと楽しいナリ」



しかし女の子の反応は意外でした


「大丈夫!専門だから!」


グっと親指を立てた女の子に最初は戸惑いました
しかしすぐに気付きました
彼女が腐女子であると!


女の子は詳しい話を聞こうと机を囲むように仁王君と柳生君の間に座りました


「で?どういう風な?」


目を輝かせては居ますがいままで幾多もの物語に目を通しているのでしょう
仁王君も柳生君も信頼して女の子に託してみることにしました


そして仁王君には珍しく一つも隠さず女の子に告げました

話を聞き終わった女の子は―


「ツンデレ受けね…うんうん。」


と訳の分からない単語を吐き


「だったらこんなのどう?」


と言って今回の計画を思いついたのでした―




…………
……………

『はぁ!?』


僕が声を上げると仁王はうるさそうに耳を塞いだ


『なに?結局腐女子のフラグに付き合わされてた訳?
僕のこの辛くて悲しかった数日間を見てはすはすしてた訳!?』

「落ち着きんしゃい」

『落ち着けるか馬鹿!』



全ては腐女子と詐欺師と紳士のせい…



揃いも揃って皆「―子」や「―師」や「―士」とは…



「でも俺も辛かったぜよ」


眉を曲げて
本当に苦しそうに言うから


『におーってずるい…』


怒れないじゃん…
そんな顔されると



「ユウは俺に俺が分かんないって言ったけど
俺はユウが分かんなかったぜよ」


『にお…』


その声
表情から
本気で悩んでたって分かった


違うよ仁王
本当は大好きなんだよ
体全体から大好きだ、って
滲み出ちゃうくらい大好きなのに


言葉に出来ないんだ


『だ、』
「だ?」

『…っいすきだから心配すんなっ…』


僕だけを見て、とか
そんな恥ずかしいこと言えないけど
詐欺師なら
仁王なら分かってくれるでしょ?




「俺は、愛しとぅよ」

心配しなさんな―。




仁王が優しく笑った
僕は嬉しくなった



僕の勝手なイメージ
仁王は誰にも本心を見せない





でも違った


仁王は僕にだけ



本心を見せてくれてたんだね―



おわり




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長っ
無駄に長…

処女作失敗←
こんなもんか。


2011.12.03



     







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