僕は保健医
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外からは部活動に精を出す声が聞こえる
完全アウェーなまでのその応援歌に若干相手校に同情しながらも暖かい室内で一人練習試合を観戦していた。


青いジャージだから…あれは青春学園かな?

ぼーっと外を見ていると一瞬窓ガラスが振動した気がした
何事かと思ったが気にも留めずまたコートに目を戻すと今度はちゃんと耳に
「コンコン」と伝わった


『はい?』

外側から入れるように設置されたガラス戸を開けるとそこには寒そうに丸まる銀髪君の姿


「寒いナリ」
『冬だもんね』
「入れて」
『君今部活中でしょ』

ジャージのチャックを首まで閉めて震える猫

『仕方ないな。はい、どーぞ』


入室を促し椅子を出してしまう自分はとことん仁王君に弱いんだと思う


『試合、勝ったの?』
「当たり前じゃ」

じゃなきゃ来ん。と呟いた


『今日はダブルス?それともシングルス?』
「シングルス。バーニングとかゆー奴と戦った」
『冬なのに暑苦しいねぇ…』
「おん」

暖房の入ってる室内なのに勝手にベットから毛布を取り出して包まる仁王君


「いい匂い…」
『そりゃダウニーですから』

ダウニーなめんな!とドヤ顔すると仁王君は「違うんだよな…」と呟いた


「せんせーの匂いがするぜよ」

『僕の家ダウニーじゃないんだけどな…』

この答えにも溜息つきで「違う」と返された


「この保健室自体が先生の匂いで充満しとるんじゃ」
『え、僕もう加齢臭的な…?』
「……はぁ」

今度は溜息オンリーの返答


「先生、香水使っちょる?」
『僕香水苦手だから使ってないけど…』
「石鹸みたいな匂いするぜよ」
『あー。ボディーソープじゃないかな?安くて良い香りのやつあるんだよね』

そう答えると仁王君は毛布の裾をぎゅぅっと握った
本当、猫みたい


そんなこと考えて居ると仁王君が不意に立ち上がった
僕よりも背が高い仁王君の蒼い目が上から降ってくる


「先生自体が石鹸みたいナリ…」


背後に回った腕が妙に熱い
身長が低い僕に合わせるように少し屈んで僕の頬に猫みたいに摺り寄せた



『ちょ!あっつ!!』

ぎゅむー。と抱きしめられればられる程仁王君の体温が異常だと気付く


『大変!熱あるんじゃん!』
「寒いぜよ」
『それヤバイ時の熱じゃん!』


わたわたして仁王君を引き剥がし僕の上着を着せて毛布でぐるぐるに梱包した後仁王君を背負った


身長は僕よりも高いくせに体重は凄く軽い
ちゃんと食べてるのか心配になるくらいだった


「歩けるぜよ…」
『うっさい、黙って背負われて』


暖房や電気を全部消して保健室を出ると真っ先にコートに向かった


『幸村君!ちょっと仁王君熱あるみたいだから連れて帰るね!』


遠くに居る幸村君に伝えると彼は笑顔で頷いた



車の助手席に仁王君を座らせて暖房を強にすると彼の家へ向かう


「寒い…」
『もうすぐ着くから我慢して』


その間もガタガタ震える仁王君


『いつからこんなんだったの?』
「朝から」
『なんで休まんかった!』
「じゃって…」

弱々しい仁王君を初めて見た時ちょうど家についた


さっき同様に仁王君を担ぐと家のチャイムを押す


「誰も居らんぜよ」
『えぇっ!じゃあ鍵は?』
「荷物部室ナリ」
『え!え?えぇっ!』

うるさい。と首元に顔を埋めた仁王君に謝りながらもどうしようか迷う


「せんせーん家でいいぜよ」
『や、意味分かんないし…』
「じゃ俺をこのままポイするんか?」
『ポイって…』

今から学校帰ったところで時間は無駄に過ぎる訳だし…
だったら近い所にある僕の家に一旦仁王君を置いておくのが…


仕方がないがもう一度仁王君を車に乗せ走らせる


数分後にはついた家に鍵を開けて入ると自室のベットに運んだ



『なんか食べたい?』
「…なんもいらん」
『一応おかゆ作るから、何がいい?』
「……しゃけ」
『ん。了解』


ありったけの毛布や掛け布団を仁王君の上に乗せた後体温計と冷えぴたを彼に渡す


冷蔵庫で鮭を探すも鮭の姿は無し


これは買いにいくしかないか…



『におー君?僕今から鮭買ってくるけど他に食べたいもんない?プリンとかさ』
「いらんぜよ…っ」
『分かった。じゃ行ってくるね』
「ちゃう、鮭…要らんから行かんどいて」
『うん。じゃあ行かないよ…?』


コート上の詐欺師でさえも熱には犯されるらしい

ピピピと軽快な音とともに映し出された数字を見て絶句

『39…もはや未知…』


とにかく薬は飲ませないと、と思い仁王君の口に無理矢理ヨーグルトを突っ込んだ後薬を飲ませた



『暫く寝てなさい。お母さんには僕が電話しとくから』
「おん」

『手でも繋いであげよっか?』


普段仁王君の詐欺に掛けられてる嫌味も込めてそう笑うと彼は静かに頷いた


『へ?』
「はよ繋いで?」


にゅーんと出てきた手に「これは困った。」と思った

あれこれ考えて居ると痺れを切らした仁王君が僕の右手を掴む


「おやすみなさい」
『うん。おやすみ』


蒼い目が完全に閉じきり、規則正しい呼吸音が聞こえたのを確認すると、僕は慣れない左手で仁王宅に電話を掛けた―













むにゅ―


頬に何かを感じ羽毛布団に顔を埋めた

『んー…』


ボーっとしていたがあることに気付き、はっと顔を上げる


『におー君!』
「おはよーさん」

寝起き一発目で仁王君の額に手を当てると彼の体温は平常に戻って居る


『あ、下がってる。まだ熱いみたいだけど』


時計を確認すると夜の9時
中学生が外出してるには遅い時間だ


『もう帰る?送ってくよ』
「んー。まだ居る」
『そっか』

仁王君の熱が下がったと分かった瞬間再び襲う睡魔

反射的に欠伸が出ると仁王君は笑った


「寝るぜよ」
『うん。』
「おやすみ」
『おやすみ』


わざわざ空けてくれた僕の分のスペース
二人で入ると少し熱かった


(僕は保健医)



(大っ変っ!仁王君!遅刻だ!)
(んー…?もういいなり)
(よくないって!!)


おわり



     







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