滲む涙も君との聖夜



何処からか聞こえるクリスマスキャロルに、ヴィオラは耳をすませた。
いつものように気まぐれに教授の部屋を訪ねたものの、家主は不在。ヴィオラは魔法を使って勝手に家に入り、“素晴らしき東洋の発明品”のスイッチを勝手に入れ、ぬくぬくと眠っていた。

しかしふと目を覚ましたときに耳に入ってきたメロディに、今日は帰ってこないかもしれないな、と思った。帰ってきても女連れかもしれない。
……そうだったら出て行こう。こたつから出るのは実に惜しいが、そんなもん見たくもない。


少し暑くなったのでこたつから半身を出して伸びをする。ムズムズとヴィオラの耳が動く。クリスマスキャロルに重なって聞こえる。階段を上る音、廊下を歩く音、鍵を開ける音。


「ただいまー」

「みゃ━━━」


誰か、特に女を連れてきたときのことを考えて、こういうときヴィオラは必ず猫の声で返事をする。
しかし外から聞こえた足音が一人分であったため、まぁ必要のないことだろうというのは見当がついていた。
教授は上着を脱ぎ捨て、ガサガサと音のうるさい白い袋をこたつ机の上に置いた。
ヴィオラはしばらく鼻をふんふんと鳴らし、そのうちむくりと起き上がった。


「チキン」

「あげないよ」


即答されたのが悔しかったのか、ヴィオラはキッチンに向かっていった教授の足元に擦り寄り、ゴロゴロと喉を鳴らして甘える仕草をした。


「ダメ!人間の食べ物は味付けが濃いから動物の体には悪いんだから」

「ツナサンドは?」

「あのときは気を引こうと必死だったんだ」


教授は戸棚の扉を開き、小さな缶を二つ取り出した。


「その代わりコレ。どっちがいい?」

「…………」


差し出された猫缶は、クリスマス仕様のきらびやかな装飾のされたパッケージで、猫を相手に何をそこまでする必要があるんだと思わず呟きたくなるような食材が使われているらしかった。


「あんた……。これ、チキンとどっちが高かった?」

「猫缶」


だからなんでそこまでするんだ。
ヴィオラは訝しげな表情のまま、教授が右手に持っていた方の缶を選んだ。






自分の食事を済ませ、毛づくろいを終えたヴィオラは真っ直ぐこたつへ向かっていった。それに気づいた教授は中に入りたいのだろうと思いこたつの布団をめくった。
しかしヴィオラは首を横に振り、教授の膝の上で丸くなった。







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